も こう 発狂。 [B! 発狂小町] bbk0524のブックマーク

海野十三 地球発狂事件

も こう 発狂

この突拍子もない名称をかぶせられた「地球発狂事件」は、実はその前にもう一つの名称で呼ばれていた。 それは「巨船ゼムリヤ号発狂事件」というのであった。 これは前代未聞のこの怪事件を最初に発見し、そしてその現場に一番乗りをした上に、全世界の報道網に対し [#「対し」は底本では「封し」]輝かしき第一報を打つことに成功したデンマーク新報のアイスランド支局員ハリ・ドレゴの命名によるものであった。 この改訂の命名者は、ドレゴ記者と仲よしの隣人である同業の水戸宗一君であった。 一体どうして巨船ゼムリヤ号が発狂したのか、また地球が発狂したのであろうか。 率直にいって、この事件の名称はあまりに突拍子であり奇抜すぎて、なんだか本当のことのように思えないのである。 ひょっとしたら、それはこれらの命名者であるドレゴ記者と水戸記者の、たちのよくない 悪戯 ( いたずら )かもしれないと、始めはそう思った者もすくなくはなかったのである。 ところが、この事件の内容がだんだんさらけ出されて行くにつれ、その怪奇なる点、 桁外 ( けたはず )れの点、常軌を逸している点などで「発狂事件」と命名するより外に他に [#「外に他に」はママ]妥当なる名前のつけ方がないことが、誰にも首肯されるに至った。 さてこそまことに天下一大事、この事件にまさる大事件は有史五千年このかた記録にも予想にもなかったといえる。 前置きはこのくらいに停め、それは一体どんな事件であったかという記述にうつらねばならぬ。 それにはこの事件の発見者である記者ドレゴ君を登場せしめることが最も効果的であろう。 ドレゴ記者はオルタ町の郊外に、先祖伝来の家を持っていた。 もちろん土地の旧家であって、農業や牧畜や交通について、彼の祖先は代々大きな権力をもっていたのである。 そして彼の家も昔に増して大へんに忙がしくなったが、その権力の方は自然に消えていったのも仕方のないことであった。 ハリ・ドレゴはこの家の長男で、今年二十四歳になる。 前にもいったようにデンマーク新報の記者であるが、このような土地のことゆえ特権もなく、牡牛のように張り切っている彼にはむしろ気の毒の連続であった。 自然彼は、町の酒場を歴訪するのがその日その夜の重大な仕事であった。 新聞記者としての収入をあてにせずともよい豪家の長男坊のことだから、どこの家でも彼はちやほやされた。 が、彼はちやほやされればされるほどそれが気に入らず、口にまで出していわないが、胸の中でむしゃくしゃしていたのである。 そういう生活の中に、彼が話相手として或る程度の満足を得られる友人が一人だけあった。 それは先にも名前をちょっと出したが、日本人記者で水戸宗一という三十歳ばかりの背の低い色の黒い男であった。 例の事件を発見する日の前夜、ハリ・ドレゴは水戸を 引張 ( ひっぱ )りまわして町中を飲み歩いた。 この日二人の間には珍らしく議論が 沸騰 ( ふっとう )したのである。 それは「この世は神が支配し給うか。 それとも悪魔が支配しているか」という問題だった。 水戸は「もちろん神々によって支配されたる有難い世だ」と言ったのに対し、ハリ・ドレゴは「いや違う。 この世は今や九百九十匹の悪魔と、僅か十人の神様とによって支配されているのだ。 その生残りの神様も遠からず、この世から追放されてしまうであろう」と心細いことを主張して譲らなかった。 水戸はドレゴの説をくつがえすために、色々と事実をあげて 反駁 ( はんばく )した。 がドレゴはいつになく水戸のいうことを聴かず、片端からあべこべの実例をもって水戸の甘い説を 薙 ( な )ぎ 倒 ( たお )していった。 この論議は、ドレゴの家の玄関口まで続いた。 水戸はこの友情に 篤 ( あつ )いドレゴがその夜飲み過ぎたことと、日頃に似合わず虚無的な影に怯えているらしいことを案じて彼の邸まで送って来たのである。 そのときはもうドレゴは前後不覚で、彼の体重は完全に水戸の身体に移っていた。 時刻は午前二時に近かったろう。 夏も過ぎようとする頃で、白夜が次第に夕方と暁方との方へ追いやられ、真夜中の前後四時間ほどは有難い真黒な夜の幕に包まれ、人々に快い休息を与えていた。 水戸は邸の中から爺やの出てくる間、その闇の中に友を抱えてひょろひょろしながら、黒く涼しい風を襟元にうけて、 蘇 ( よみがえ ) [#ルビの「よみがえ」は底本では「よみが」]ったような気持ちにひたっていた。 「ああ、これは水戸様……おや、若旦那さまを。 これは 恐 ( おそ )れ 入 ( い )り 奉 ( たてまつ )りました」 ガロ爺やは、恐縮して水戸の腕から重いドレゴの身体を受取った。 そのときドレゴは突然頭を獅子舞のようにふりたて、 「いや、何といっても僕はこの目で見て勘定して来たんだ。 九百九十匹の悪魔が棲んでやがるんだ。 ……いやいや、もう一匹いたぞ。 ううん違う二匹だ。 悪魔め、ちょっと僕が油断している間に、九百九十……九百九十五匹かな、九十四匹かな……ううい」 後はガロ爺やの背中でむにゃむにゃいっていたが、それもやがて聞こえなくなった。 爺やは水戸に丁寧に礼を述べて玄関口を閉め、それからアルコール漬の若旦那さまを担いで馬蹄形に曲った階段をのぼり、そして彼の寝台の上にまで届けたのであった。 ドレゴは寝台の上に大の字になって倒れると、またしても声を出して「キ、君、悪魔集団は僕たちの隙を窺っているんだぞ。 油断は……」 あとは口の中、そしてガロ爺やが戸口を閉めて部屋を出て行くときには、若旦那さまの独白は大きな 鼾 ( いびき )に変わっていた。 そのままで何事もなかったなら、おそらくドレゴは昼前頃までぐっすりと眠り込んだことであろう。 ところがドレゴは思い懸けない出来事のため、それから一時間ばかり後に、一度目をさまさなければならなかった。 泥のように熟睡していたドレゴをほんの数秒の間なりとも目を覚まさせ、むっくり寝台の上に起上らせるという力を発揮したものは、相当のものであった。 ドレゴは 愕 ( おどろ )いて目をさましたのだ、そして重い瞼を懸命に開いて、何か大きな音のした方を見廻したのであった。 分かった。 寝台と反対側の壁にかけてあった聖母マリヤの額像が半分に 千切 ( ちぎ )れ、上半分だけが壁にぶら下ってまだぶらぶらしていた。 下半分は 絨氈 ( じゅうたん )の上に散らばって落ちているようであった。 「ちぇっ、うるせいぞ」 半睡半醒の状態にあったドレゴは如何なるわけにて不思議にもマリヤの額縁が半分に叩き壊されて落ちたのかを探求する慾も起らず、物音のしたわけだけを了解すると安心してそのまま再び寝台の上にぶっ倒れて睡ってしまったのである。 それから二時間ばかり経った。 ドレゴは再び目をさまさなければならなくなった。 それは異様な血みどろの悪魔が、彼を包んでしまってその恐ろしさと苦しさにどうしても目をさまさずにいられなかったのである。 彼は沙漠を旅行した者のように、疲れ切っている自分を発見した。 それから下腹が今にも破れそうに 膨 ( ふく )らんでいるのに気がついた。 いや、もう一つ、顔の左半面が妙にひきつっている。 彼は手をそこにやってみた。 指先にかさかさしたものが触った。 何だろうと、手を引いて見ると、それは赤黒い血の固まりであった。 彼はびっくりして顔から頭へかけて手で 撫 ( な )でまわした。 ぴりりと痛むところが一箇所みつかった。 それは左のこめかみの少し上にあたるところで、毛根にがさがさするほど血らしきものがこびりついていた。 「いつ、やったのか。 昨夜は大分飲んだらしいが、……はて、気がつかなかったぞ」 ドレゴは寝台を下りた。 寝台を下りるとき枕許をふりかえると、枕も 夥 ( おびただ )しい血で赤黒く汚れていた。 そのときも彼はその負傷が、昨夜の 梯子酒 ( はしござけ )の 行脚 ( あんぎゃ )のときにどこかで受けたものであろうとばかり考えていた。 彼は、北側の壁にかけてある鏡の前に進み寄った。 「あ! ……」 彼は自分の顔を、幽鬼と見まちがえた。 そうであろう、顔色は青く、目は光を失い、頭髪は 萱原 ( かやはら )のように乱れ、そして艶のない頬の上にどろりと、赤黒い血痕が附着しているのであったから。 彼は、非常な後悔の念に駆られた。 そして一刻も早くこのような幽鬼の形相から 脱 ( のが )れたいと思った。 そのために彼は、隣の化粧室の扉を蹴るようにして中へ飛び込んだ。 水をじゃあじゃあと出して、顔をごしごし洗った。 首筋から胸へかけても、ひりひりするほどタオルでこすった。 うがいも丁寧に二度もやった。 そして頭髪に爽快なローションをふりかけ、ブラッシュでぎゅうぎゅうとかきあげた。 そして最後の仕上げをチックと櫛に托して、漸く鏡の中にこれなら見られる自分の顔を取戻したのであった。 彼は長大息した。 こびりついて放れそうもなかった悪夢が、あらかた彼の身体から出ていったように思った。 いやまだ悪夢の断片がまだどこか、この化粧室に残っているような気がする。 彼は 周章 ( あわ )てて化粧室をとび出した。 そして元の寝室へ戻った。 そして南向きの窓のあるところへいっていっぱいにレースのカーテンをひろげた。 午前四時のすがすがしい空気が、ヘルナー山の方から彼の胸に向ってぶつかった。 彼は目を細くして大きく呼吸をした。 真夏といえども山頂に白く雪の帽子を被つているヘルナーの霊峰、そしてその山腹に残っている廃墟オルタの城塞の壁。 毎朝目をさますと、きまってドレゴはこのヘルナーの霊峰とオルタの古城を仰いで宇宙万象古今へ挨拶を贈るのであった。 この朝彼は不慮の負傷のため、 聊 ( いささ )か順序をくるわしはしたが、今や新しい精進の気持ちをもって、気高い霊峰の上へ目をやったのであった。 「おお、わが霊の峰ヘルナー。 永遠に汚れなくあれ、われは今……」 といいかけて、ドレゴは突然声を停めた。 彼の 厳 ( おごそ )かな態度は 俄 ( にわか )に崩れた。 彼の目には怪しい光があった。 そして 狼狽 ( ろうばい )の色が顔一杯に拡がり、そして全身へ流れていった。 「変だよ、変なものが見える、ヘルナーの峰に……」 ドレゴは、窓から半身を乗りだして、白い雪の帽子を被ったヘルナーの峰を見つめていたが、いくど目をしばたたいてみても、霊峰の上に船の形をしたようなものが見えるのだった。 「 莫迦 ( ばか )な……」 それでも彼はまだ自分の頭を信じなかった。 目を信ずるわけにいかなかった。 その 揚句 ( あげく )彼は一旦窓から半身を引っ込めた。 そして再び彼の姿が窓に現れたときには、彼の手には長く伸ばした望遠鏡が握られていた。 接眼鏡は左手によって彼の目に当てられた。 右手は望遠鏡の先の方を窓枠にしっかりと固定した。 焦点が合わせられた。 彼の視野に、浅みどり [#「浅みどり」は底本では「朝みどり」]の空と、白い峰の雪とが躍った。 やがて彼の探らんとする物体が、レンズの中央にしっかりと像を結んだ一瞬、彼は心臓をぎゅっと握られたように愕いた。 「おお……こんな奇妙な風景があるだろうか……」 彼は見たのだ。 信じられないものを霊峰の上に見たのだ。 それは彼の目によって見、彼の頭脳によって判断すると、ヘルナー山の峰の雪の上を、一隻の汽船が航行しているのである、船体をやや斜めに傾けて……。 そんなことが有り得べき道理はない。 海抜五千十七 米 ( メートル )のヘルナーの峰に、大海を渡るために作られた汽船が航行中というのはおかしい。 が、いくら目をこすってみても、望遠鏡の焦点を再調整してみても、ヘルナーの山頂には少しも変わりなき異風景が見られたのである。 ドレゴは遂に 暈 ( めまい )を 催 ( もよお )した。 彼は望遠鏡を窓枠の上に置くと、そのまま窓の下にへたへたと崩れ座った。 そして彼は目を両手で蔽うと、大きな声で泣き出した。 それは彼自身が急に身体の調子を失して発狂したのだと思ったからであった。 ドレゴが再び雄々しく立上ったのは、それから五分も経たない後のことだった。 彼が若し自分が新聞記者であることを忘れていたとしたら、いつまでも窓の下で狂おしく泣いていたかもしれない。 「……これは 特種 ( とくだね )だ。 すばらしい、特種だぞ。 いや、恐るべき大事件だ。 前代未聞の怪事件だ……」 ドレゴは、そういいながら、再び立上って窓から首を突出した。 今度は気が落ちついているので、あえて望遠鏡の力を借りずとも、霊峰ヘルナー山頂の白雪を噛んで巨船が横たわっているのが、はっきりと肉眼で確められた。 一体どうしたというわけだろうか、海を渡るべきはずの汽船が山を登ったというのは……。 この解答は、ドレゴの一切の智力をもってしても出てこなかった。 彼はいまいましくてならなかった。 でも、かかる奇怪極まる謎を即座に解き得る者は、この世の中に誰一人としていないであろうと思い、彼は自己嫌悪の気持を 稍 ( やや )取戻した。 「答える術のない怪事件だ。 だがその事実だけは誰の目にも正しくうつっているのだ。 そうだ、もっと多く観察しなければならない、これから直ぐ、ヘルナー山へ登ってみることだ」 ドレゴはガロ爺やを呼んだ。 そして急いで二日分の糧食と飲物の用意を命じた。 何もしらないガロは 愕 ( おどろ )いて、 「若旦那さま、どこかへお出ましでございますか。 一体いずれへ……」 と尋ねたが、ドレゴはそれには応えず、命じたものを急いでここへ持って来るように命じた。 それはサンドウィッチ、ビスケット、チーズ、塩肉、野菜スープの缶詰、それから数種の飲物だった。 ガロはいいつけられたものを地下物置から取出すと、大きな盆の上に山盛にして、ドレゴの部屋へ持って来た。 「若旦那さま。 持参いたしました。 これでよろしゅうございますか」 「うん、待てよ、忘れものがあってはたいへんだ」 登山の身支度半ばのドレゴは、ガロの持っている盆のまわりをまわって必要品を調べる。 ガロはドレゴの登山服に目を留め、 「若旦那さま、ヘルナー山にお登りかと存じますが、御承知のとおり只今の気候は登山によろしくございませんで……」 「爺や、危険を顧みている 隙 ( ひま )はないのだよ。 切迫した事情があるんだ。 そしてそれは僕を一躍世界の寵児にしてくれるかもしれないのだ。 お前が僕だったら、こんな千載一遇の機会をのがすかね」 「はい。 それは……しかし一体あの 雪崩 ( なだれ )の峰に如何たる幸運が隠されているのでございますか。 爺やは合点が参りませぬ」 「お前だって、一目見れば分るよ。 窓のところへ行ってヘルナーの峰を見てごらん。 疑問はたちどころに氷解するだろう」 「何と 仰 ( おお )せられます」 爺やは窓のところへ歩みよったがそのときドレゴは、爺やに盆を下に置いてからそうするよう注意すべきだった。 気のついたときは遅かった。 霊峰へ目をやった爺やは、ああああっと長い叫び声を発すると、その場に卒倒してしまった。 糧食の盆は大きな音と共に彼の手を放れて床の上に落ち、あたりへ大事なものを撒きちらし、転がせてしまった。 ドレゴは漸くにして身支度を整えて、家の前に待っている自動車に乗込んだ。 彼はハンドルを山とは反対の方へ切って、町の中を降り出した。 こういうときには絶対に協力者が必要だ。 一人では成功することが 覚束 ( おぼつか )ない。 ドレゴは、最も信用している有能な通信員の水戸を誘うことを忘れなかった。 さすがの水戸も、いきなり門口から飛び込んで来たドレゴから、あと十分間に登山の用意をして車の中に乗り込めと命令同様にいわれた時には、何のことやら訳が分らず、しばらくは友の顔を穴のあくほど眺めるだけであった。 「水戸、そうしてぼんやりしている一分間というものが、全世界にとって如何に尊い浪費であるか、今に分るだろう。 さあ、すぐ仕度に 取 ( と )り 懸 ( かか )るんだ、早くしろ水戸」 「ドレゴよ。 何故……」 「それは車の中で詳しく話をするよ。 前代未聞の大事件発生だ」 「なに、前代未聞の大事件」 「そうだとも。 そうしてわれわれは、一生涯の中に、二度とない機会を与えられているんだ。 いや、君のように泰然と構えていては、その絶好の機会も掌の中からどんどん逃げ出しそうだ。 早くせんか、この黄色い 南瓜 ( かぼちゃ )の君よ」 「これは済まぬことをした。 待っていてくれ、急いで支度をするから……」 水戸は何事とも知らないが、やっと事態の重大性を呑み込めたと見え、それからは室内をこま鼠のようにくるくる走りまわって登山の支度に取り懸った。 「食糧はある。 君の大切にしている君の国の酒の壜だけは忘れないように」 「おう、 合点 ( がてん )だ」 猶予時間 ( ゆうよじかん )を十分間まで使わないで水戸はドレゴの操縦する車の中へ乗りこんで、彼と肩を並べた。 車は走りだした。 こんどは猛烈な速度で、ヘルナーの登山道をどんどん飛ばした。 何にも知らない漁師や農夫が、危くはねとばされそうになって、車のあとへ呪いの言葉を投げつけた。 「一体どうしたのか。 前代未聞の大事件というのは……」 水戸はドレゴの 脇腹 ( わきばら )を 小突 ( こづ )いた。 「おお、そのことだ。 言葉で説明する前に、まず君の目で見て貰った方がいいだろう。 ヘルナーの 頂 ( いただき )に注意して見給え」 「なに、ヘルナーの峰を見ろというのか」 水戸は、きっとなって、顔を風よけの 硝子 ( ガラス )の方へ近づけると、首をねじ曲げてヘルナーの峰を探した。 「ここらの連中と来たら 呑気 ( のんき )すぎるよ。 僕が発見してからもうかれこれ三十分になるのに、誰も気がついていないのだから……」 「おう、あれか」と水戸の声は 慄 ( ふる )えた。 「なるほど不思議だ。 雪のあるヘルナーの峰が盛んにもえている……」 そういった水戸の言葉を、今度は逆にドレゴが愕く番となった。 「なに、ヘルナーの峰が燃えているって。 そんなはずはない」 「そんなはずはないといっても、確かに燃えているよ。 炎々たる火焔が空を焦がしている」 「え、それは本当か」 ドレゴはさっと顔色をかえて、車を停めた。 そして扉をあけて下へ立った。 おお、なるほどヘルナー山頂は火焔と煙に包まれていた。 例の汽船の姿はその煙の中に殆んど没入していた。 さっきまでは煙一筋もあがっていなかったのに、これはどうしたことであろうか。 友はしきりに感歎の声を漏らしていた。 そして滅多に興奮しない彼が日頃にもなく顔を赤く染めて、激しい感投詞を [#「感投詞を」はママ]口にした。 「これが僕の知っていることすべてだよ。 後は、すっかり君の知識と同一さ」 ドレゴは言葉の終りをそう結んだ。 しかし正確にいうと、彼のこの言葉は完全だとはいい切れなかった。 なぜならば彼はもう一つ水戸に語るべき事柄を忘れたのであった。 尤 ( もっと )もそのときドレゴ自身が、その事柄をすっかり忘却していたのだから、彼を責める訳にも行かないだろう。 それは、昨夜ドレゴが熟睡中、彼の寝室における異様な物音によって目覚めたという一事であった。 この事柄こそ、事件判定の有力なる手懸りの一つであるわけだが、ドレゴはそれから程経つまでこの重要な事項を忘れていたのである。 現場は惨憺たる [#「惨憺たる」は底本では「惨怛たる」]ものであった、荒涼目をそむけたいものがあった。 巨船は人を 莫迦 ( ばか )にしたように山頂に横たわり、そしてあいかわらず燃えさかっていた。 町中の人が、皆戸外に立って、燃えさかる山頂を恐怖の面持で見守っていた。 今や事件は、この町中にすっかり知れ亙ったのである。 ドレゴと水戸が、やっぱり一番乗りだった。 ヘルナー山に登るには相当の用意が必要だったので、誰でも直ぐ駆けあがるというわけに行かなかった。 また自動車をこんなに速く山麓へ飛ばす芸も、この 呑気 ( のんき )な町の人々には真似の出来ることではなかった。 それでも両人が現場に辿りつくまでには、かなりの時間がかかった。 両人は全力をあげて能率的に互いを助け合ったつもりだったが、現場についたのは、もう夕刻であった。 その長い忍耐苦難の連続の道程に、ドレゴは彼の事件発見の顛末の一切を水戸に語って聞かせたのであった。 そしてドレゴと水戸の両人は、船体から約二十 米 ( メートル )以内に近づくことを許されなかった。 もしそれを犯そうとすると、熱気のために気が遠くなるばかりであった。 「残念だなあ。 一番乗りはしたけれど……」 とドレゴは口惜しそうな声を出した。 「まあ我慢するさ。 それより早いところ第一報を出そうではないか」 水戸はそういって、リュックの中から携帯用の超短波送受信機を取出して組立始めた。 ドレゴはぎょッとした。 そうだ、自分は非常に大きい不用意をやってのけたのであった。 新聞記者でありながら、この山頂からの通信をどうするかを考えなかったのだ。 いつもの調子で町から容易に通信が出来るように思っていた。 そこへ行くと水戸は 咄嗟 ( とっさ )の [#「咄嗟の」は底本では「咄差の」]場合にも用意周到だ。 やっぱり、よかった。 協力者として水戸を誘ってよかったのだ。 もしドレゴ自身ひとりで出懸けて来ようものなら、通信機を持たぬ彼は今頃 地団太 ( じだんだ )踏んで 口惜涙 ( くやしなみだ )に暮れていたことであろう。 「あの汽船の名前だけでも知りたいものだ。 ドレゴ君、見て来てくれないか」 水戸は通信機の組立の手を休めないで、そういった。 「よし、見て来よう」 「それからこの事件の名称だ。 ドレゴ君は名誉あるこの事件の発見者だから、君がいい名称を択ぶんだよ」 「うん、すばらしい名称を考え出すよ」 ドレゴは、すっかり機嫌を直して、燃える巨船の船尾の方へ駆け出して行った。 煙が、意地悪く船尾の方へなびいているので、そこについているはずの船名は、そのままで読みとれなかった。 これには困ってしまった。 が、彼はこのままで引下がることは出来なかった。 何かよい工夫はないかと、頭脳を絞ってみたが、 不図 ( ふと )思付いて、彼はすこし後退すると雪塊を掘っては岩陰へ 搬 ( はこ )んだ。 そしてかなり溜った上で、今度はそれを 掴 ( つか )んで矢つぎ早に船尾を蔽う煙に向って投げつけた。 これは思い懸けなくいい方法だった。 煙はこの 雪礫 ( ゆきつぶて )に遭って、動揺を始め、或る箇所では薄れた。 それに力を得て、ドレゴは更にその方法をつづけ、そして遂に 朧 ( おぼろ )なる船名を判定することに成功したのであった。 ゼムリヤ号。 これがこの怪しき巨船の名であった。 一体どこの国の船であろうか。 それを知りたいと思って、なおもしばらく雪礫で煙を払ってみたが、それは成功しなかった。 船腹には国籍の文字もなく、船旗も信号旗も悉く焼け落ちていたからである。 それからこの事件の名称だ。 ドレゴは、水戸の待っている場所まで戻る間に、この事件のためにすばらしい名称を思付くことを祈念した。 そしてその結果、 不図 ( ふと )一つの驚異的な名称を思付いたのである。 「巨船ゼムリヤ号発狂事件」 この名称では少々奇抜すぎるかなと思った。 しかし後々になってこの事件の内容がだんだん明白になるにつれ、最初にドレゴが考えたこの奇抜過ぎる事件の名称も、案外この事件に相応しい魅力を備えてはいないことに気がつくに至った。 それは後の話として、彼ドレゴが何故このような名をつけたかというと、海を渡るべき巨船が山の上の航行を企てたところは、このゼムリヤ号が発狂したものとしか考えられないという着想から来ていた。 嘴 ( くちばし )の青い [#「青い」はママ]ドレゴ記者にしてはまことに大出来であったといえる。 それはそれとして、本当に巨船ゼムリヤ号は発狂したのであろうか。 発狂したとしたら、何故発狂したのか。 そして何故にこんな雪山の上に巨体を横たえるようなことになったのであろうか。 不思議である。 奇抜すぎる。 本当のことと思われない。 しかしこれは 飽 ( あ )くまで事実であった。 ではこの事実をどう説き明かすか。 それはゼムリヤ号の煙が、もう少し治るのを待たねばならない。 若きハリ・ドレゴは、折角こうして怪奇きわまるゼムリヤ号の狂態現場に駆付けながら、これ以上手をつけ得ないことをたいへん 口惜 ( くや )しがった。 断崖の上で超短波の通信装置の組立に従っていた水戸宗一は、ドレゴの方に思いやりのある 眸 ( ひとみ )を送って、彼を元気づけた。 「ねえハリ。 口惜しがったり、くさったりする前に、君が是非とも果さなければならない義務があるじゃないか」 「なに、義務というと……」 「困るなあ、君は……。 君は、この大事件の名誉ある発見者でありながら、まだその義務を世界に向かって果していないではないか。 つまり君は、まだこの大事件について、一本の通信も送っていない」 水戸にそういわれると、ドレゴはおおと 呻 ( うめ )いて顔色を変えた。 「そ、そうだった。 自分だけで愕いて、興奮して、騒ぎたてるばかりだった。 そうだ。 早く第一報を送らないと、誰かにだしぬかれてしまう。 水戸、今からではもう遅すぎるかなあ」 ドレゴは、水戸の腕をゆすぶった。 そのとき水戸は、通信装置の試験をようやく終ったところだった。 「その心配は無用だ。 このヘルナー山頂の見える区域で、超短波の通信機を持っているのは、今のところ僕たちばかりだからね。 村人も、もちろん今ではこの怪事件に気がついてはいるが、彼らは通信機関を持っていない。 だから僕たちは依然として、第一報を送り得る恵まれた立場にあるのだ。 なるべく早い方がいいが、しかしまだ 周章 ( あわ )てることはない」 「ふうむ、それもそうだな」とドレゴは、ようやく気を取直した。 「無線機の用意はすっかり出来ているよ。 さあ、今こそ君は光栄ある報道者として、この驚天動地の怪事件の第一報を、最も十分なる表現をもって全世界に放送するのだ。 ハリ、原稿を書くがいい」 「うむ。 書くぞ」 ドレゴは、紙を出して、その上に鉛筆を走らせ始めた。 彼の額には血管が太く 怒漲 ( どちょう )し、そして彼の唇は絶えずぶるぶると痙攣していた。 「第一報は、簡潔なのがいいぞ。 しかし驚天地異の大報道であることについて 遺憾 ( いかん )なく表現すべきだ」 水戸は傍から 友誼 ( ゆうぎ )に 篤 ( あつ )い忠言を送った。 ドレゴは、無言で 肯 ( うなず )いた。 「これでどうだい」 ドレゴは紙片を水戸の方へ差出した。 彼の声は明るく、そして大興奮に震えていた。 「やっ、これは書いたね。 何月何日の深夜、この汽船は発狂の極、アイスランド島ヘルナー山頂に坐礁した。 そして目下火災を起し、炎々たる焔に包まれ、記者はあらゆる努力をしたが、船体から十メートル以内に近づくことが出来ない。 この前代未聞の怪事件は、本記者の如く、自らの目をもって見た者でなければ到底信じられないであろう。 このゼムリヤ号発狂の謎を、解き得る者が果たしてこの世界に一人でもいるであろうかと、疑わしく思う。 もちろん本記者も決してその一人でないと、敢えて断言する。 それほどこの事件は常識を超越しているのだ。 「そうだなあ。 敢えて、こき下ろすとすれば、この記事は長すぎる。 前半だけで沢山だ。 それに……」 「それに?」 「ねえ、ハリ。 いや、全くのところ、僕も君の鋭い感覚と、そして大胆なるこの表現とに 萬腔 ( まんこう )の敬意を表するものだ。 発狂した者がありとすれば、その当人は一ゼムリヤ号ではなく、もっとでかいものだよ」 「ふふん。 じゃあ、一体何が発狂したというのかね」 「そのことだが、僕なら、こう命名するね。 地球が発狂したのでもなければ、この一万数千トンもある巨船が、標高五千十七メートルのヘルナー山頂に噴きあげられた理由が説明できんじゃないか。 もちろん地球が発狂したといっただけでは完全なる説明にはなっていないが、とにかく常識破りのこの怪事件のばかばかしさというものは、地球が発狂したとでもいわないかぎり、そのばかばかしさを伝える表現法が見付からない。 そうは思わんかね、君は……」 「それは大いに思う。 しかし……しかし、何だか僕の頭が変になって来るよ。 この報道を受け取った新聞通信社の約半数は、この報道内容の常識逸脱ぶりを指摘して、報道者ドレゴの精神状態が正しいかどうかにつき疑問を持ち、報道をさしひかえた。 世界各地の通信機関と調査団とが、ヘルナー山頂に続々と集まってきた。 そういう人々の手によってやたらにキャンプが張られ、郵便所が出来、テレビジョンやラジオの放送塔が建てられた。 それから簡易食堂や酒場や娯楽場までが出来て、あまり広くもない山頂一帯は、まだ火の手をおさめないゼムリヤ号を中心として、急設文化都市の出現に、もうキャンプ一戸分の余地も残さないようになってしまった。 どの通信社も、始めに派遣した団体のスケールでは、この大事件の報道には十分でないことが判った。 そのことが判ると、彼らは本社へ向って、もっと強力な調査機関を備えた第二班の出動を請求した。 しかし第二班が到着してみると、そのときには更に一層強力なる第三班の急派を打電しなければならない有様だった。 それというのも、発狂したゼムリヤ号の火災は一向下火になる様子がなく、 反 ( かえ )って燃えさかる模様が見えるばかりか、近き将来大爆発を起すのではないかとも思われたし、そうかといってこれだけの大掛かりの出張員たちがいつ消えるとも分らぬ火災を傍観しているばかりでも済ましていられず 遂 ( つい )に防火服や防圧服に身を固め、船腹の一部へ突進して溶接器で穴を 穿 ( うが )ち、たちまち噴き出す火焔と闘って懸命の消火作業を続け、ようやく火焔を内部へ追いやると共に、防火服の冒険記者が船体の中へ 匍 ( は )い 込 ( こ )むなどという、はらはらする光景も展開するようになった。 しかも、こういう努力に対して 酬 ( むく )いられるところは一向大きくはなかった。 たとえば、このゼムリヤ号の航海日記などはどの通信社でも第一番に狙ったものであったけれど、それは誰も手に入れることが出来なかった。 というのは、船橋などはもう既に完全に焼け尽し、真黒な灰の 堆積 ( たいせき )の 外 ( ほか )に何も残っていなかったのである。 その他のものも、 呆 ( あき )れるほどよく焼けており、この数日ゼムリヤ号の火災が普通以上に高熱を発して燃え続けたことが、誰の目にもはっきり承認された。 そうなると、調査方針は自然変更されねばならなかった。 今度は積極的に消火することに狙いが置かれた。 今盛んに燃焼している部分を完全に消し留めることによって、これから先燃焼するであろう物件を助け出し、それによってゼムリヤ号の搭載荷物とか遺留物品を点検して何かの新しい手懸りを得ようとするのであった。 そのためには、更に大掛りな機械類の現場到達を本社へ向けて要請しなければならなかった。 このような大掛りな調査競争となったために、ハリ・ドレゴや水戸宗一の役割は、すこぶる貧弱なものに 墜 ( お )ちてしまった。 彼ら両人には、完全な耐熱耐圧服の一着すら手に入れることは出来なかった。 従って両人は甚だ残念ながら報道の第一線から 退 ( しりぞ )く外なかった。 「これから、どうするかね、水戸」 野心 勃々 ( ぼつぼつ )たるハリ・ドレゴは、まだ 諦 ( あきら )めかねて水戸に相談をかけた。 「うむ、ジム・ホーテンスの説に傾聴するんだな」 さっきから水戸は、 巖陰 ( いわかげ )からオルタの町の方を見下ろしていたが、振り向いてドレゴの顔を見ながら、そういった。 「ジム・ホーテンスって、アメリカのCPの記者のことか。 あの背の高いそして口から煙草を放したことのない……」 「そうだ、あの 寡黙 ( かもく )な仙人のことだ。 彼は見かけによらず、よく物を見通しているよ」 「水戸。 君はホーテンスと話をしたんだな」 「うん。 僕はどういうわけか、ホーテンスから話かけられてね、かなり深く本事件について意見を交換したんだが……」 「で、結論はどうだというんだ」 ドレゴは、せきこんで聞いた。 「……ホーテンスは、さすがに 烱眼 ( けいがん )で、いい狙いをつけているよ。 彼は、燃えるソ連船ゼムリヤ号の焔の中に飛びこむ代りに、七つの海の中からその前日までのゼムリヤ号の消息を拾いあげようと努力している」 「あのゼムリヤ号はソ連船かい」 「そうだ」 「なるほど、僕はそういう大切なことを調べないでいたわけだ。 そしてホーテンスは、ゼムリヤ号について目的を達したかね」 「残念ながら、今朝までのところはね」 と水戸は 応 ( こた )えた。 それを聞いていたドレゴは、一段と顔の色を輝かすと水戸の手を取って引っ立てた。 「おい水戸、これからホーテンスに会おうじゃないか。 君は僕を紹介するのだ」 だが、水戸は首を左右にふった。 「ホーテンスは、今この山にいない」 「えっ、ここにいない。 では何処にいる……」 「あそこだよ」 水戸は下界を指した。 それは彼らの古巣であるオルタの町だった。 町は、ここから見ると、フライパンの上にそっくり 載 ( の )りそうな程に小さく愛らしく見えた。 まもなく 焦 ( あせ )るドレゴを連れて、水戸はホーテンスの跡を追った。 そしてかれは、ホーテンスとドレゴとを、自分の部屋に招待して、 晩餐会 ( ばんさんかい )を催すことにした。 彼は、マハン・サンノム老人の経営する素人下宿に住居しているのだった。 サンノム老人は、神のように心の広い人で、元は船長であったそうだ。 夫人も死に、子供は始めから無く、今は遠い親戚に当たるエミリーという働きざかりの婦人にこの家を切り盛りさせている。 なお、この家には佐沼三平という中年の日本人がいて、手伝いの役を勤めていた。 水戸がこの家へ下宿するようになったのも、この三平が 薦 ( すす )めたものであって、どういうわけかサンノム老人を 贔屓 ( ひいき )にしていた。 この家における目下の下宿人は、水戸の 外 ( ほか )に、音楽家の高田圭介と音羽子の夫妻があり、それからソ連の商人でケノフスキーという人物も滞在していた。 水戸の計画した晩餐会は大成功であった。 ドレゴが喜んだことは勿論のこと、ホーテンスもいつになくよく 喋 ( しゃべ )った。 三人の間には、盛んにコップの触れ合う儀礼が交換され、 空 ( から )になった酒壜は殖えていった。 ホーテンスはこの土地の名産であるところの一種の 鱒 ( ます )の 燻製 ( くんせい )をたいへんに褒めて食べた。 すっかりいい気持ちになったところで、話題は例の巨船ゼムリヤ号の発狂事件に入っていた。 水戸は、ドレゴがホーテンスが調査したことの詳細を知りたがっていると述べると、ホーテンスは、 「よろしい、ではこの好ましき仲間のためにもう一度それを述べよう、今日握った新しい事実も加えて……」 といって気軽に語り出した。 「水戸君には話しておいたことだが、あの怪汽船ゼムリヤ号はソ連船なんだ」 と、ホーテンスは語り出してドレゴの顔を見た。 ドレゴは血色のいい顔で肯いて、それは聞いて知っていると応えた。 「ほう、知っているんだね。 よろしい、ではそれから先の資料だ。 水戸君も愕くことがある筈だ、なぜといってこのゼムリヤ号は、調べれば調べるほど、なかなか興味ぶかい船だからね」 水戸が酒壜を持ってホーテンスの盃に 琥珀色 ( こはくいろ )の液体を注ぎそえた。 「有難う。 まず君達を喜ばせるだろうと思うことは、あのゼムリヤ号は最新鋭の 砕氷船 ( さいひょうせん )だということだ」 「砕氷船! そうか、砕氷船か」 聞き手の両人は、目を 瞠 ( みは )った。 「それも並々ならぬ [#「並々ならぬ」は底本では「並々ならね」]新機軸を持った砕氷船なんだ。 この船は、外部から氷に押されるとだんだん縮むのだ。 船の幅で六十パアセントに圧縮されても沈みも壊れもしないで平気でいられるという凄い耐圧力を持った砕氷船なんだ。 こんな新機構の船が今までに考えられたことを聞かないね」 「ふうん、凄い耐圧力だ。 それだけの圧縮に平気なら、氷原でも何でもどんどん乗り切って行くだろう」 と、ドレゴは 羨 ( うらやま )しそうな顔をする。 「で、そういう事実を、君はどこで発見したのかね、ホーテンス君」 訊 ( き )いたのは水戸だった。 「そのことだ。 僕は、怪船ゼムリヤ号の身許を知ることが、この事件の解決の近道だと思ったので、 早速 ( さっそく )本社へ指令して、ありとあらゆる船舶関係の刊行物を調べさせた。 ところがゼムリヤ号の名はどこにも見当らないと報告があった。 僕は失望した。 しかし、同時に別の勇気が奮い起った。 それはつまり、ゼムリヤ号がいよいよ怪船らしく見えてきたからだ。 だが、それだけではどうにも出来ぬ。 何としてもゼムリヤ号の正体を探し当てなければならぬ。 この上はどうしたらいいだろうかと思い、このオルタの港を眺めていると、そこへ入港して来た一隻の汽船がある。 それはソ連船レマン号だった。 僕はその船を見た瞬間一種の霊感に触れた。 そこで飛ぶようにして一隻のモーターボートを傭い、そのレマン号へ乗りつけたのだ。 それから、船長に要件を申し入れた。 船長のポーニフ氏は愕いていたね。 しかし彼はゼムリヤ号なんて聞いたことがない名前だといった。 それは嘘だとは思われない。 僕はまた失望したが、それなれば、新着の船舶関係の刊行物を見せて下さいと頼んで、サロンで新聞や雑誌類を見せて貰った。 ところが、その中に 只 ( ただ )一冊、当のゼムリヤ号の記事を掲げている雑誌につきあたったんだ。 その雑誌はヤクーツク造船学会誌の最近号たる六月号だ。 その雑誌の一隅に、新鋭砕氷船ゼムリヤ号のことが小さい活字で紹介してあったのさ。 もしこの雑誌を調べ 洩 ( も ) [#ルビの「も」は底本では「もら」]らしていたとしたら、ゼムリヤ号の正体は今以て不明だったろう。 いや、実にきわどいところだったよ」 そういってホーテンスは大きな溜息をつき、ぐっと一ぱい酒をあおった。 「努力が酬いられたのだ。 神は常に見て 居給 ( いたも )う。 そして正しき者へ幸運を垂れ給う」 水戸が誰にいうともなく 呟 ( つぶや )いた。 「その雑誌の中に、今君がいったゼムリヤ号は六十パアセントの圧縮に耐えると記されていたのかね」 「そのとおりだよ、ドレゴ君。 君もゼムリヤ号の特殊構造には興味を感じるだろう」 「全く、大いに感じる。 第一、そういう凄い耐圧力を持たせるには普通の鋼材では駄目だね。 何という材料かなあ」 「そのことは雑誌に少しも記されていない。 だが我々は近き将来において、その材料のことや構造のことをはっきり知ることができるだろう。 焼け落ちたとはいえ、その資料はヘルナー山頂に横たわり、今も我々の監視下にあるんだからね」 ホーテンスとドレゴは、新鋭砕氷船の特質につき大きな興味を沸かしているのだった。 「一体砕氷船というものは、そんなに強い耐圧構造を持っていなければならないものかね」 水戸が、疑問をなげかけた。 「さあ、それは強ければ強いほどいいだろうが、それにしても少し 大袈裟 ( おおげさ )すぎるな。 僕なら、そんな 莫迦 ( ばか )げた耐圧力を持った砕氷船なんか作りやしないよ」 と、ドレゴが、寒帯住人らしい自信を持っていい切った。 が、ホーテンスが、別の見解を 陳 ( の )べた。 「だがねえ、仮にゼムリヤ号のような砕氷船が百隻揃って北氷洋や南氷洋に出動したと考えて見給え。 そうなると極寒の海に俄然常春が訪れるじゃないか、漁業や交通やその他いろいろの事業に関して……」 「ほう、これは面白い想定だ。 ううむ、そして実現性もある」 「だが、僕はそう思わないね。 ゼムリヤ号があのような強い耐圧力を持っている理由はもっと外にあるような気がするよ」 「というと、どういう意味かね、ドレゴ君」 「それは……」といいかけたドレゴは、後の言葉を 咽喉 ( のど )の奥にのみこんだ。 そして彼は視線をホーテンスの顔から 逸 ( そ )らせた。 ホーテンスは、ドレゴの意見を聞きたがった。 が、ドレゴは、 「いや、もう少し慎重に考えてから、 喋 ( しゃべ )ることにするよ」 と、いつになく尻込みをして、煙草の煙をやけにふかすのであった。 水戸はちょっと心配になった。 ドレゴのそういう態度が、折角今夜この招待に応じたホーテンスの気持をここで悪化させないかを 虞 ( おそ )れたのである。 だが、ホーテンスの明るい顔色は 聊 ( いささ )かも変らなかったばかりか、彼は更にゼムリヤ号に関する未発表の調査事項までを、ドレゴと水戸の前にぶちまけたのである。 「話はまだその先があるんだよ、君たち」とホーテンスは煙草に火をつけ、「さっきから述べてきたゼムリヤ号の正体を僕が発見して本社へ報告したところそれから間もなくゼムリヤ号の行動についての 愕 ( おどろ )くべき詳細なる報告に接した。 いいかね」 とホーテンスは腕組みをして、二人の同業者の顔を見渡し、 「……事件の日から三週間前のことだが、ゼムリヤ号に相違ないと思われる汽船が、フィンランドの北岸ベチェンカ港外に現われたことが分ったのだ。 ゼムリヤ号は沖合に碇泊し、港内へは入らなかったが、傭船を以て給水を受けた。 そして三時間後には 愴惶 ( そうこう )として 抜錨 ( ばつびょう )し北極海へ取って返した。 どうだ、面白い話ではないか」 「ふうん。 一つの有力なる 手懸 ( てがか )りだ」 「ところがさ、ゼムリヤ号の消息は、それっきり知られていないのだ。 つまり事件の発生した日までの三週間に亙る行動は全く不明なんだ。 そこでこういう説が行われている。 ゼムリヤ号は、或る予期せざる 椿事 ( ちんじ )のため、或る巨大なる力を受けて北極海から天空に吹きあげられ、そして遂にこのアイスランドのヘルナー山頂へ墜落したのだろう。 勿論この推定は 漠 ( ばく )たるもので、何等確実なる証拠がないが、常識からいって、そう考えられるという程度に過ぎないが……」 「僕はそうは思わない」ドレゴが途中で口を挿んだ。 「ゼムリヤ号が北極海からこのアイスランドへ飛来したという説は、全く事実に反するものだ」 「なに、事実に反するって。 それは面白い。 君は早速それについて説明をしてくれるだろうね」 今度はホーテンスが聴き手に廻る。 「ああ、是非聴いて貰いたいね。 つまりこうなんだ。 僕の結論を先にいえば、ゼ号は南方からこの島へ飛来したのだと思う。 いいかね、南方からだ。 君のいうように北方からではない。 そしてそれには歴然たる証拠がある」 「ほう、全く正反対の説だ。 で、その歴然たる証拠とはどんな事だ。 そしてその証拠はどこにあるのかね」 「その歴然たる証拠物件は、何を隠そう、実は吾輩の寝室にあるんだよ。 はっはっはっ」 ドレゴはそういい切って 呵々大笑 ( かかたいしょう )した。 「なに、君の寝室に……」 ホーテンスは目を丸くした。 「そうなんだ。 事件の当夜、あの事件の発見に先立つこと数時間前、水戸も知っているとおり僕はあの夜泥酔していて 漸 ( ようや )く自分の寝台に登ったわけだが、 忽 ( たちま )ち深い眠りに落込んだ。 ところがその深い眠りを突然覚ますような事件が起ったんだ。 ガーンとでかい物音が眠りを破った。 それは寝室の北側の壁のあたりから発したように思った。 僕はその物音に一旦目を覚ましたものの、音は一度きりだったので、又眠ってしまった。 そして夜が明けた。 僕はふとぼんやりした記憶に呼び戻されて、目を北側の壁へやったところが、 愕 ( おどろ )いたね、そのときは……。 なぜってそこに懸けてあった額縁が上下に真二つに割れ、壁にはその上半分だけが残ってぶら下っているんだ。 それから僕は目を壁伝いに下に移した。 床の上に、額縁の破片と一緒に、見慣れない手斧が落ちていた。 その手斧は柄の一部が折れていたが、その上には明らかに、ゼムリヤ号の船名が彫りつけてあった。 聞いているかね」 「聞いているとも。 実に素晴らしい話だ。 先を続けてくれたまえ」 ホーテンスも前へ乗り出して来た。 「それから僕は、この手斧がどこから部屋の中へ飛込んだかを確かめようと思ったさ。 それは苦もなく分った。 何故って、寝台の南側の窓のカーテンが一個所大きく、引き裂かれていたではないか。 疑いもなくゼ号の手斧は南の窓から飛込んでカーテンを裂き、それから北側の壁の額縁にぶつかったんだ」 「なるほど、なるほど……」 「その手斧は、飛びつつあったゼ号からこぼれ落ちたものに相違ない。 然 ( しか )らば、この手斧の運動方向とゼ号の飛行方向とは同一でなければならない。 そうだね。 するとゼ号は空中を、いやもっと精密にいうなれば、我家の真上を南から北へ飛び過ぎたものと断定して 差支 ( さしつか )えない。 さあどうだ、これが吾輩の握っている確かな証拠さ」 ドレゴが語り終ると、ホーテンスは昂奮のあまり椅子からとびあがると口笛を吹いた。 「ほう、素晴らしい。 頗 ( すこぶ )る重大なる手懸りだ。 すると砕氷船ゼムリヤ号は事件直前において大西洋を航行中だったんだ。 そうなるとゼ号は一体そんなところで、何をやっていたのかということになる。 ゼムリヤ号の行動こそ、いよいよ出でて奇々怪々じゃないか」 と、ホーテンスは盛んに手をふりながら叫んだことである。 水戸は椅子の中に深く身体を沈めて、じっと考えこんでいる。 二人の若い記者の小晩餐があった翌日、ホーテンスはドレゴの邸宅を訪ね、彼の寝室の南のカーテンの裂けているところや壊れて真二つになった額縁や、そういう暴行を演じたゼムリヤ号の手斧などを見せて貰い、ドレゴの主張する南方飛来説が十分根拠のある訳を再確認したのであった。 「君の寝室は重大なる手懸りとして大切に保存せらるべきだ」と、ホーテンスは言葉を強めて云った。 「君の寝室はこの事件に関して僕の立てていた推定を根底から引繰り返してしまった。 ゼ号は北極海からではなく大西洋方面から飛来したという事実を中心として、更に多くの資料を集めないことには、この怪事件は到底解決できないだろう。 われわれは一層協力しなければならぬ」 そういって、この 烱眼 ( けいがん )なる記者は、ドレゴと水戸の手をかわるがわる握ってこの困難なる仕事への 再発足 ( さいほっそく )を激励し合った。 が、この三人が重要問題としている点は、一般にはさほど重視されていなかった。 新聞や放送におけるこの事件の報道の焦点は、やはり、如何なる怪力がゼムリヤ号を高い山頂へ 搬 ( はこ )んだか、ということにあった。 それは興味の点からいっても当然であろう。 この事件が発見された当時は各紙とも、この問題の解決に殆ど無能力に見えた。 なにしろ一万数千トンもある巨船が、海抜五千米のヘルナー山頂へ 引掛 ( ひっかか )っていることをどう説明したらいいか、途方にくれたのは 当 ( あた )り 前 ( まえ )であった。 そうだ、ゼムリヤ号は発狂でもしなければ、そのような狂態を示し得ないであろう。 それはジャーナリスティックな奇抜な事件題名としてその感覚を買われているだけのことであって事件内容に触れ、そして事件の謎を解釈するものとしているわけでない。 如何にこの事件の謎の解決が困難であるにせよ、時間の経過は、この事件の解決案を要求してやまない。 全世界に亙る読者と聴取者とは、日の経つに従って焼けつくほどの熱心さを以てそれを新聞社や放送局へ求めるのであった。 求められた方では全く弱ってしまった。 そこで少しでもこの謎について発言して 呉 ( く )れそうな人物を探し、或は、ここぞと思う筋を 衝 ( つ )いて報道の資料とした。 この困難な解決案の収集において現われたものを分類すると、 凡 ( およ )そ顕著な傾向を示すものが四種類あった。 しかしこれは現場を検分したことのあるものなら明らかに不適当な解答だと認定することが出来る。 しかしこれは全然無意味だ、何故ならヘルナー山頂には確かにそうした事実が厳然として存在しているのだから。 その三は、奇跡説ないしは怪談説である。 これは余論もあろうがともかくも一説をなしている。 しかし然らば如何にしてこの奇跡ないしは怪談が生じたかという説明がつかないかぎり、事件の解答として満足すべきものとはならない。 この説によると、その事件の当時、某国が秘密裡に某海域においての実験を行ったのであるが、ゼムリヤ号は不幸にしてその実験現場附近を航行していた。 そのために原子爆弾の巨大なる爆風に吹き飛ばされた結果、あのようなことになったのであろうというのである。 この説は、四種類の答案中最も現実性を帯びているために、日と共に有力となっていった。 と同時に、世界に第二の原子爆弾製造国が現われたのかも知れないという点で、原子爆弾の偉力に常に 戦慄 ( せんりつ )を禁じ得ない世界人類に別個の刺激を与える結果となった。 そして人々は、果してそうかどうかを一日も早く確かめたかった。 このことについて更に一層人々の関心を高めたものは、世界における原子エネルギー学の権威として知られているワーナー博士の発言であった。 博士は研究室において意見を発表して 曰 ( いわ )く、 「ゼムリヤ号を高山 頂 ( いただ )きにおいて座礁せしめることは、原子エネルギーによるに非ざれば不可能である」 と述べたのであった。 二つの台風の中心が双方から近づいて一つに合体し、更に一層猛烈な新台風を作ったかのように本事件は大沸騰を始めたのであった。 そして、第二の原子爆弾製造国が現実に現われたかのように思い込んでしまう人々が多くなったばかりか、その製造工業に成功した某国とは一体何処なりやという点について熱心な論議が行われるようになった。 だがこの論議は、その影響するところの重大性に 鑑 ( かんが )み、明らかなる国名は新聞や放送には発表されなかった。 つまり遠慮されたのである。 しかるに別途、一つの疑惑に火がつけられた。 それは、ゼムリヤ号がソ連船であり、そして驚異の性能を持った新鋭砕氷船であり、その行動も事件発生の三週間前から 杳 ( よう )として謎に包まれているのにも 拘 ( かかわ )らず、ソ連側からは一向何らの弁明すら発表されていないのはどうした訳かというのであった。 そのために、問題の某国とはソ連のことではないかという臆説までが飛び出すようなことになってしまった。 そういう最中にソ連側の釈明が、ようやくにして公表されるに至った。 その釈明は非常に簡単で、次のようなものであった。 果して多くの人々が、この釈明に 頗 ( すこぶ )る満足の意を表すると共に、かかる立派なる釈明があるなれば、何故にもっと早期において発表されなかったかを 遺憾 ( いかん )とする者もあった。 とにかくこの釈明によって、原子爆弾の秘密実験を行った某国というのはソ連ではなかったことが明瞭となった。 この釈明の出た直後は、世界の隅々までにこの報道が行渡り話題としてにぎわった。 ドレゴと水戸の両人もまた午後三時のお茶をのみながら、この事について語り合った。 「僕はてっきりそうだと思っていたがね。 だから僕は前にホーテンスにそのことをいいかけて、 周章 ( あわ )てて口を噤んだのだ。 彼を無用に 刺激 ( しげき )したくはなかったのでね」 ドレゴがいった。 水戸は黙って肯いた。 「おや、君は何か別の意見を抱いているのかね」 ドレゴが、水戸の硬い面を凝視した。 「いや、僕は始めからあの国を疑ぐりはしなかった。 この事実を投げ出せば、釈明は一言でもって明瞭に片附くではないか、それをしないであのような 謂 ( い )い 方 ( かた )の釈明を採用したのは一体どういう訳だろうかね」 そういって水戸記者は、静かにドレゴの面を 見詰 ( みつ )めた。 ドレゴはくすりと笑って、顔を右へ振った。 「おお、可愛想な東洋の哲学者よ、何故君はそんなに懐疑を恋人として楽しむのかね」 それを聞いて水戸ははっと顔を硬くした。 が、すぐさま元の何気ない表情に戻って、 「これは哲学ではない、事件真相の探究だ。 悪くいっても推理遊戯の程度さ」 水戸は軽く笑って、冷たいコーヒーを飲み干した。 「そうかねぇ、それにしてもあの事件の真相だが、原子爆弾の実験説を支持するとして 此際 ( このさい )僕等はどの国へ嫌疑を向けるべきだろうかね、もちろんアメリカとソ連は吟味ずみで、その 埒外 ( らちがい )だ。 そこで僕は今、その嫌疑を……」 「待ち給え!」と水戸は小さく叫んだ。 「この事件は原子爆弾には無関係だよ。 何故そういうか。 おい水戸、誰がそんなことを実行に移すだろうか。 大西洋は広く且つ深いのだ。 全域に亙って探すということになれば一年懸るか二年懸るか分らない」 「いや、それには 探 ( さが )し 様 ( よう )があるのだ。 普通のやり方では勿論駄目だが僕の考えている方法でやるなら四週間位で結果が出ると思う」 「ふふふふ、すごい 法螺 ( ほら )を吹くぜ、君は」 と二人が盛んに論じ合っている 卓子 ( テーブル )へ、入口から入って来た若い男がつかつかと歩み寄った。 「おう、ドレゴ君に水戸君」 「やあホーテンス君だよ」 「へえ、そうかね、何事だい」 「一つの機会が、今君達の前にある。 どうかね、これからワーナー博士の調査団に加わって一週間ばかり船旅する気はないか」 「ワーナー博士って、あの原子核エネルギーの権威であるワーナー博士のことか」 と水戸は、せきこんで 訊 ( き )いた。 「そうだよ」 「ふうん、すると大西洋の海底を 探 ( さ )ぐるんだな」 「ほう、よく知っているね」 「ぜひ連れていって 呉 ( く )れ。 事件の鍵はあそこになければならないのだ。 おいドレゴ君、君も是非行くんだ」 水戸は何時になく昂奮して叫んだ。 その朝、オルタの港へ、一隻の奇妙な恰好をした船が入って来て、町の人々の目をみはらせた。 いやに四角ばった殺風景な船で、甲板の上には 橋梁 ( きょうりょう )のようなものが高く組んであり、後甲板は何にもなく平らであった。 白いペンキ塗装ばかりが美しく、そして船尾に目もさめるような星条旗がはためいていた。 掃海船サンキス号だった。 掃海船とはいうものの、この船は水上機母艦と同じ役目もやってのけた。 町の人々は怪飛行機が橋桁の上にのっているのを見つけた。 それがばっと煙をあげて、いきなり船を放れたのには驚いた。 続いて大砲を撃ったような音が聞え、その船はカタパルトを持っていたんだと始めて気がついた者もあった。 この掃海船サンキス号こそ、ワーナー博士調査団の用船だった。 ジム・ホーテンス記者は、ドレゴと水戸とを伴って乗船した。 そして前甲板の喫煙所で団長ワーナー博士に二人を紹介した。 博士は白髪赭顔の静かな人物だった。 「おおドレゴ君。 ゼムリヤ号事件の発見者たる名誉に輝くドレゴ君ですね」 博士は目をぱちぱちして、ドレゴの手を握って振った。 ドレゴは、少女のように 耳許 ( みみもと )まで真赤に染めて、博士に挨拶をした。 水戸も丁寧な礼を博士に捧げた。 「まあお掛けなさい。 間もなく出港ですから」 博士の言葉に、四人は籐椅子の上に落着いた。 博士はパイプを 咥 ( くわ )えた。 「ゼムリヤ号事件については原子爆弾説が圧倒的だった中に、水戸君はワーナー先生と同様に、大西洋にゼムリヤ号事件の鍵があると主張して断然異説をたてていた人です」 と、ホーテンスは博士に紹介した。 「それは愉快だ。 で、大西洋についてどういう予見を持っておられるかな」 博士の問いに、水戸は何かを応えなければならなかった。 「私の説は、まだ証拠がないのですから、大した価値はありませんが、推理としてはゼムリヤ号があの事件当時居た大西洋で、まさか原子爆弾の実験が行われる筈はないと思ったからです」 「なるほどそれは同感だ」 「それにゼムリヤ号を山頂にまで吹飛ばした巨大なる力はもちろん原子核エネルギーを活用すれば得られますが、しかし原子核エネルギーは今のところ爆弾の形においてしか存在しません。 で、原子爆弾を使ったとすればゼムリヤ号の船体はヘルナー山まで飛ぶことは飛ぶが、あのように船体が中程度の損傷で停っている事はないと思うのです。 つまり原子爆弾の力によるものならば、吹飛ぶ前にゼムリヤ号の船体はばらばらに解体していなければならんと思うのです」 「それは卓見だ。 どうぞ、もっと君の意見を聞かせてもらいたいものだ」 博士は、水戸の説に傾聴を惜しまなかった。 が、当の水戸は、そこで 極 ( きま )りが悪そうに、微笑して、 「……たったそれだけの事なんです。 お恥かしい次第ですが……。 で、とにかく大西洋をよく調査すれば何等かの新しい手懸りが得られるんではないか、といったわけです」 と水戸が新聞記者らしい率直さでぶちまければ、博士は真面目な顔で 頷 ( うなず )く。 「それで先生の御見込はどうなんですか」 と水戸が 訊 ( き )く側へ変った。 「そのことだがね」と博士はいって、パイプに新しい葉をつめ、ライターで火を移したのち「これはまだこの事件に関係があるかどうか分らないが、僕が某観測所から得た報告によれば、最近大西洋の海底に小地震が 頻々 ( ひんぴん )と発生しているのだ。 それがね、従来の地震に見られる原則に対し、どういうわけか一致しない地震なんだ。 何というか、異常地震というか、新型地震というか、とにかく変った海底地震なんだ」 「ははあ」 三人の聴手は傾聴している。 「そしてね、最も興味あることは、異常地震が始めて記録されたのが、例のゼムリヤ号事件の起った日に極く近いのだ」 「それは面白い、どっちが早かったのですか、同じ日じゃなかったんですか」 水戸は昂奮して、思わず途中で口を挟んだ。 「同じ日ではなかった。 異常海底地震の方が五時間ほど前に記録されているんだ」 「五時間前! すると前日の十九時から二十時の間ですね」 「そうだ。 詳しい時刻は十九時三十五分と記録されている」 「五時間も喰い違いがあると合わないなあ」 水戸は呟いた。 「何が合わないって、水戸君」 ホーテンスが傍から訊ねた。 「いや。 つまりその異常海底地震を起したものによってゼムリヤ号が吹飛ばされたと仮定すると、この時刻がきちんと合わなければならないという話さ。 いま先生に伺えば、時刻が違っているんだから、これは成立たないと分った……で先生は、それでどうお考えになったのですか」 博士は何事かの考えに注意を奪われていた様であったがこの時、われに返り、 「おお、そのこと。 その異常海底地震を、この船で詳細に調べて見たいと決心したんだ。 さて海底に何事が起りつつあるか、何物が存在しているか甚だ興味のあることだ」 と、博士は火の消えたパイプを強く吸った。 サンキス号は、アイスランドを後にして、一路南下していった。 航海は快適だった。 翌朝になると、もう既に気温が五度ばかりあがっていた。 海水も大西洋らしい青味を帯びた色に変った。 ドレゴと水戸は、船の 手摺 ( てすり )にもたれて、矢のように北へ逃げて行く海波の縞に見惚れていた。 「どうしているかなあ、ヘルナー山の上の記者たちは……」 望郷の念に駆られたらしい、ドレゴがこんなことをいった。 「もう火災も消えたから船の中へ入って、さかんに 瓦斯焔 ( ガスえん )切断機で鉄壁を切開いていることだろう。 そして何かを発見するつもりだろう」 「ふふむ。 いい手懸りの品物が見つかるだろうか」 ドレゴは、こっちへ来て失敗したかな、ヘルナー山頂にいた方がよかったかなと、ちょっと動揺した。 「なんの、大したものは有りはしないよ。 結局において彼等もまたこの大西洋へ後から追駆けてくることになるのさ」 水戸は、そのことに信念を持っているようだった。 「なぜ、そう思うんだね」 ドレゴは、まだ思い切れないらしい。 「だってね、そもそもゼムリヤ号はあの事件の被害者なんだから、船内を探してみても何にも有りはしないよ。 参考になるのは、被害程度だけだ、それなら、われわれが外から見た結果と大した変りはない筈」 「ふうん。 だが、原子爆弾の破片でも船内に残ってはいないかな、放射線をすごく出すやつがね」 「呆れたね、君は。 ドレゴ記者は、まだ原子爆弾説を堅持しているのかね」 「そんな大きな眼をして僕を見詰めるなよ」 とドレゴは恥かしそうに笑い、 「実をいうとね、僕は君の説である所の原子爆弾反対説になるべく同意したいと努力していたんだがね、ところがだ、この船に乗る直前、うちの爺やのガロが、僕のところへサンドウィッチの包といっしょに一通の手紙を持って来たんだ」 「ほう。 「で君はどう思う」 「そういわれりゃ僕も手落があったよ」 と水戸は手斧に放射能物質が付着しているかどうかを調べようとはしなかった点に手落のあったことを認めた。 「だがね、いつもいうことだが、そんなことは本事件の中の末梢部分なんだ、どっちでもよい、いや僕は恐らく手斧に放射能物質は付着していないと思う、それよりも問題として捨てておけないのは、その手紙を寄越した『君の崇拝者より』というやつだが、一体誰だね、君の崇拝者というのは」 「さあ、さっぱり見当がつかないよ。 全文タイプでうってあるしね」 「その手紙、持っているかい」 「うん、ここにある」 ドレゴは、ポケットから皺くちゃになった封筒を引張りだして、水戸に見せた。 水戸は、それを拡げて見ていたが、やがてにやりと笑って、それをドレゴに返した。 「この手紙を書いたのは女だよ」 「へえ、女か、どうしてそれが分る」 「とにかく女だと分る。 しかしこの警告は、果してこの女から出たか、それとも他に糸を引張っている者があるかどっちか分らない。 それはそれとして、われわれは今まで少し 呑気 ( のんき )すぎたよ。 これからはもっと注意を深くせにゃならない」 水戸は、そう言ってドレゴに警告した。 「おお君たち、わが艦隊の勢揃いを見て愕いたですか」 背後から声をかけられて、ホーテンス記者がやって来たのだと気がついた。 「わが艦隊?」 ドレゴが目を丸くした。 「ああ、あれだ。 駆逐艦らしきものが三隻、こっちに潜水艦が二隻……」 水戸は数えた。 「そのとおり。 われわれはこの調査の遂行に万全を期している。 用意は周到である。 しかし君たちは、あまり 大袈裟 ( おおげさ )だと笑うだろう」 ホーテンスがそういった。 ドレゴと水戸とは共に頭を左右に振った。 「もう調査は始まっているの」 ドレゴが訊いた。 「観測はもう始まっている」 「何か手懸りになるようなものが出ましたか」 と、水戸がたずねた。 「いや、まだまだ。 異常海底地震帯へ本船が入るのは、今から三時間後だ」 「三時間後。 ほう、もうそんなに現場へ近づいているんですか。 本船は [#「本船は」は底本では「本舟は」]トップ・スピードで走っているんですね」 護衛艦に周囲を守られた調査船サンキス号は、一路問題の地震帯へ急行している。 果してその現場にどんなものが待っているだろうか。 船室の連絡用拡声器から、警報ブザーの音が気味わるく響いた。 乗組員たちは、それぞれの胸に、どきんと不安な衝動を感じた。 「あと十五分で本船は問題の異常海底地震帯へ突入する。 乗組員全部は、只今から警戒配置につけ」 南下中の掃海船サンキス号は、俄然緊張した。 船橋には船長以下の硬い顔が並んで見える。 その羅針船橋より一段高い無電室が、調査団の部屋に用意されてあったが、そこには団長ワーナー博士を始め有能なる研究員たちが、めいめいの観測装置にぴたりと寄添って、さてこれから如何なる異常現象が計器の面に現れるかと、軽い 身慄 ( みぶる )いと共にその時を待った。 ドレゴ記者も水戸記者も、ホーテンスと同じようにこの部屋に詰めていた。 三人の記者たちはその隅に 塑像 ( そぞう )の如く停止し、ワーナー博士たちの観測を出来るだけ邪魔しまいと控えていた。 「マイナス一分三十秒。 ……マイナス一分二十秒。 ……マイナス一分一秒……」 時計係は、自記航海図と時計とを見較べながら、刻々と迫り来る重大時刻について警告を続けた。 誰も余計な口を聞く者はなかった。 団長ワーナー博士は胸に下っている小さい送話器を握りしめたまま、微動もしなかった。 この送話器は、船橋に通じていて、もし本船の安全を 脅 ( おびやか )すような事件が近づくと看取された暁には、間髪をいれず船長に報告される筈だった。 そういう報告が出れば、船長は直ちに乗組員の生命の安全のために応急処置をとるであろう。 「……マイナス十秒……」 ドレゴ記者は緊張のあまり窒息しそうになり、ネクタイをぐいと引張って 弛 ( ゆる )めた。 ホーテンスは、右の靴の先で、軽くリノリウムの床を叩いていた。 水戸記者は塑像のように硬化している。 「今だッ!」 時計係の声は、咽喉から血が出るような声で叫んだ。 大きな鈍い音が起った。 「あ、やられた?」 ホーテンスも、それに気がついた。 そして二人の記者はドレゴの傍に膝をついた。 ドレゴは知覚がなかった。 水戸は烈しい不安に捉われた。 彼はドレゴを仰向かせると、オーバーの胸をひろげ、服やチョッキの 釦 ( ボタン )を 引 ( ひ )き 千切 ( ちぎ )るように外した。 ワイシャツの下からドレゴの胸毛が見え出したときに、ドレゴは始めて呻り声をあげた。 「おお、気がついた。 どうした。 何かあったか」 「しっかりしろ、ドレゴ。 何か物をいえ」 二人の同僚は、心配と商売意識との両方に駆られ、ドレゴに顔を寄せた。 その二人の鼻へ、ぷんぷんとアルコールの匂いが……。 「なあんだ、……」 「水はないか。 目が廻ったんだ。 咽喉がひりひりする」 「それだけか」 「おお水戸。 異常現象らしいものが何か起ったね。 どうだ」 「ふうん。 冗談じゃないよ。 てっきり君がその異常現象に喰われたと思ったんだ」 「莫迦をいえ。 僕はそんなものに喰われるような間抜け男じゃない」 「いずれにしてもだ。 こういうときはあまりアルコールを呑み過ぎるものじゃない。 下手すれば脳溢血で、あの世へ急行だぞ」 「同感だ。 水戸に同感」 ホーテンス記者が、とどめを刺すようにいった。 それを以てドレゴの卒倒事件は 片付 ( かたづ )いた。 彼は、大きな酔いが廻って来たところで不自然な緊張を我身に強いたのがよくなかったに違いない。 さて、ワーナー博士の学者たちは、この間に何を探し当てたか。 「……」 研究員たちは、林の如く静かであった。 先刻以来、石のように固くなって微動だにしない様子だ。 ドレゴの卒倒事件にさえ誰もが気がついていないと見える。 ドレゴは起上って、隅っこの安楽椅子に自分の身体を投げこんだ。 それをホーテンスの眼が抗議するように 睨 ( にら )んだ。 「ホーテンス君。 博士たちは何かを掴んだらしいね」 と水戸は、彼の胸を引いた。 「うん。 何を掴んだかな」 そういったホーテンスは、つかつかと博士の傍へ歩み寄った。 「博士。 何があったのですか、地震はどこに現われていますか」 「 叱 ( し )ッ」 博士は、ホーテンスの方へは振返らないで、自分の唇に人指し指をあてた。 「失礼しました……」 ホーテンスは悪びれず謝罪してから、水戸の方へ手をあげて合図をした。 水戸は肯いて、極度に足音を立てないように注意して、ホーテンスの傍へ寄った。 何事も未だ起っていないようだ。 だが、 今 ( いま ) 正 ( まさ )に何事かが起らんとしつつあるのだ。 それは説明がなくても、勘のいい記者たちには察知せられた。 博士が 睨 ( にら )みつけている電界強度計の指針が、気のせいか 微 ( かす )かに 慄 ( ふる )えているようだ。 息詰まる緊張の幾秒が 尚 ( なお )も続いた。 しかし想像したような愕くべき何事も遂に起こらないように見えた。 記者団の緊張が 稍 ( やや ) 弛 ( ゆる )みかけた。 と、その時だった。 ワーナー博士が鋭い叫び声を発した。 「おお、異常の力の場に入った!」 博士の声と共に、各観測装置の計器の針は一斉に大きく揺れた。 それは計器が 俄 ( にわか )に心臓をどきどきさせ始めたように見えた。 「指針が飛んだ。 二号計器へ切り換えろ」「おお予備を持って来い」などと、研究員たちが競争のように 喚 ( わめ )き始めた。 パイロット・ランプが、あっちでもこっちでも点滅して、激しい力の変化が現に今働いていることを示す硫酸乾燥器が爆発した。 最高温度計がパンクした。 日記記録計の針がぴーんと飛んで、行方がわからなくなった。 リノリウムの上は、殺人事件の現場のように、赤インクの海が出来た。 三人の記者たちは、困惑の絶頂に放り上げられていた。 非常に愕くべき出来事の真只中に今自分たちが置かれているのだ。 しかもその愕くべき出来事が一体何事であるのか、それがさっぱり分からない。 博士に聴きたい。 そう思って博士の方を見るが、当の博士は、器械類の間を猟犬のように敏捷に縫いまわり、早口にしきりに部下を指揮している。 だから話懸ける隙もないのだった。 「何事が起こっているのだろうね、ホーテンス」 ドレゴは酔いも醒め果てて、アメリカの記者の腕を揺すぶった。 「分らない。 しかし博士が予期していた以上の驚愕にぶつかっていることは事実だ」 やがてこの調査団室の風が 一先 ( ひとま )ず鎮まる時が来た。 それはワーナー博士が自席に戻りハンカチーフで額の汗を拭ったことによって知れた。 「何事が起こったんですか、ワーナー博士」 ホーテンスが、待ち兼ねた質問の矢を放った。 「煙草を、誰か……」 博士が記者の方を見た。 水戸が、ケースを博士に差し出した。 そして博士の指に摘まれた紙巻煙草の一本に、ライターの火を移した。 博士は、 貪 ( むさぼ )るように強く煙草を吸った。 「予想以上に奇怪なる海底地震にめぐり合ったのだ」 博士は、夥しい紫煙の中から、そういった。 「ほう。 でも、われわれは自分の身体に地震を感じませんでしたがね」 水戸が早口に言葉を挿んだ。 「もちろん計器の上に感じた地震だ。 すごい伝播速度のものだ。 秒速二千四百キロメートルを観測したよ」 「なるほど、普通の地震の場合の三十倍以上の高速ですね」 「ふうん、君は勉強しているね」と博士は水戸の顔を見直していった。 「伝播速度だけの異常ではない。 その他、波動法則にも普通の地震に見られない異常性が認められる。 殊に合点のいかないのは、それに続くべき余震らしいものが発見できないことだ。 もっとも、もっと時刻が経って起こるのかも知れないが、それにしても、もう相当時間が経っているんだから変だ」 ワーナー博士は、自ら観測した結果について、休みなく語り続け、博士の指にある煙草が幾度となく消えたが、水戸はその度に、ライターを 摺 ( す )った。 「で、地震は今どうなっているのですか」 ホーテンスが訊いた。 「今ちょっと落着き状態にある。 とにかく敏感な計器は皆針を飛ばしたりなんかしたので、この間に次の観測の準備をしなければならない」 博士は、研究員たちの忙しそうな姿へ目をやった。 その後にも引き続いて起こるかと思われた海底地震が、予想を裏切って一向に起こらなかった。 また余震が全然観測されなかった。 「変だね、あれだけの顕著な地震に余震がないなんて……」 と水戸は呟いた。 「余震がないということはそんなに怪しむことかね」 ドレゴがパイプを口からもぎ取って、目を 剥 ( む )いた。 「そうだろう。 地震には余震が付きものなんだから……」 「そうかね。 僕には、ぴんと来ないがねえ。 何かもっと目に見える派手な事件でも、起こって 呉 ( く )れなくちゃ、僕には異常現象たることが諒解できない。 ああ、とにかく 草臥 ( くたび )れたよ。 外へ出て、冷い潮風に当たって来ようや。 君もちょっと出ないか」 ドレゴが誘ったので、水戸記者もそれに応じて、この無電室を出た。 縹渺 ( ひょうびょう )たる大西洋は、けろりんかんとしていた。 どこに海底地震があったという風だった。 「護衛艦たちは、いやに遠くへ離れちまったねえ、水戸君」 「うん、観測の邪魔にならないように、本船の間に相当の距離を置いたんだろう」 「そうかなあ。 あれは駆逐艦らしいが、いい格好だねえ。 おや、どうしたッ。 変だぞ、あの艦は……」 ドレゴの声が驚愕に変わった。 彼が指した方には海面からふわりと煙のように持上がる黒い固まりがあった。 それは紛れもなく艦らしい形をしていた。 が、突如として真赤な閃光に包まれると見る間に、天空に四散した。 怪また怪! 第二の怪事件起こる。 意外なる第二の怪事件突発に調査団員も護衛艦隊の乗組員も共に、大驚愕のうちに生色を失った。 おお、吾々は気が確かであろうか。 吾々は夢を見ているのではなかろうか。 夢でなければ今我々は生命の危険に 瀕 ( ひん )しているのだ。 どうしたら、それから免れることができるだろうか! その中に、さすがワーナー博士は誰よりも落ち着きを保持していた。 博士は、サンキス号の観測室から、同じ船に坐乗している護衛艦隊の司令ペップ大佐に対し、適切にして明快なる指令を発した。 「ペップ司令、われわれは即時トップ・スピードでこの海底地震帯から脱出しなければならぬ。 但し駆逐艦二隻は、しばらく現場に停り、不幸なる駆逐艦D十五号の遺留品を出来るだけ多く収容したのち、速やかにわれわれの跡を追うように 取計 ( とりはか )られたい」 この指令を、高声器から受取った司令ペップ大佐は 愕然 ( がくぜん )と正気に戻った。 この司令はさっきからずっと船橋の展望 硝子 ( ガラス )戸を通して海上の恐ろしい惨劇に魂を奪われていたのだった。 「 御尤 ( ごもっと )も。 直ぐ発令します、ワーナー団長」 二分間ほど間をおいて、ワーナー博士のところへ司令から報告があった、司令は博士の指令を実行に移したと。 その頃にはサンキス号も 際 ( きわ )どい急回頭を終わっていた。 先刻までは右舷から差し込んでいた夕陽が、今は反対に左舷から脅かすような光を投げこんでいる。 ひどい震動が乗組員たちの足許から 匐 ( は )いあがってきて脳裡にまで響いた。 サンキス号は今や最高速力をあげ、第二の怪事件の起こった現場から死物狂いで脱出しつつあるのだ。 三人の新聞記者たちも、それぞれの形態でこのすさまじい戦慄の空気の中に息を停めていた。 ドレゴは水戸にすがりついて震えていたし、水戸は水戸で火の消えた煙草をしきりに吸いつつ硝子戸越しに泡立つ海面へ空虚な目を停めていた。 ホーテンスは拳をこしらえて彼の頸のうしろをとんとんと忙しく叩きながら、わけも分からぬ言葉を繰返していた。 誰も気が変になったように見え、或いは生ける屍のようにも見えた。 白髪 赭顔 ( しゃがん )のワーナー博士は、愛用のパイプから紫煙をゆるやかにくゆらせていた。 博士は、ちょっと首を左右にふり向けて室内を見渡した。 この部屋にいる者の顔色を打診したのであろう。 博士の表情が少し硬くなった。 彼はパイプを握った方の手をあげて、部下達の方へふり向いた。 「われわれはもう危機を脱した。 心配することはない。 あと五分で、みんな配置から解放される。 が、誰もまとまった言葉をいう者がなく、聞こえたのは呪いの声だけであった。 真先にワーナー博士のところに近づいたのはホーテンスだった。 続いて水戸がドレゴの腕を押しながら、それに加わった。 「団長、ありゃ何です。 「さあ、今は分からないという外あるまいね」と博士は首を左右に振った、「だがたいへん幸運な収穫だ、われわれは、第二の怪事件を、自分の目で 一伍一什 ( いちごいちじゅう )はっきりと観察することが出来たんだ」 「それはそうです。 しかし博士あの爆発事件について、どういう感想を持たれますか。 例えばあの事件とゼムリヤ号の間にどんな関係があると考えられます」 ホーテンスは猟犬のように迫った。 「それは興味ある問題だ」博士は肯いた。 「それがはっきり分かるときは、ゼムリヤ号事件も先刻の事件も共に解けるだろう。 が、わしの手許には、まだこの問題を解くべき何の因子も集まっていない。 むしろ……そうだ、むしろ君がたの意見を聞いて参考にしたいくらいだ」 博士は、あべこべに問題をホーテンスの方へ押しやった。 ホーテンスは、うむと 呻 ( うな )った。 それから彼は数秒間咽喉を鳴らしていたが、やっと決心を固めたという風で、口を開いた。 「僕の感じたところでは、さっきの駆逐艦爆発事件はゼムリヤ号事件よりもっと楽に解ける事件じゃないですか。 僕の見たところで、まさか、さっきの事件は明らかに原子爆弾の攻撃によるものだと思いますよ。 艦体が海面からもちあげられ、そして火焔に包まれ、それから煙のようになって四散し、天へ昇っていきましたからね。 だからあれは海中で原子爆弾の攻撃を食ったのに違いありませんよ。 ゼムリヤ号の場合はそれとは違うと思われる。 だから両者は別物ですよ」 ホーテンスはここで言葉を停めて、博士の顔色を窺った。 博士はちょっと眉の間に 皺 ( しわ )をこしらえただけで、何ともいわなかった。 「僕は同じ原因から起こったことだと思いますがね」 水戸記者の声だった。 ホーテンスはふり返って水戸を認めると、笑いながらもっと前へ出て喋れと合図をした。 水戸記者はホーテンスと反対の意見だが、何を考えているのであろうか。 「水戸君の説は、どうなんだ」 ワーナー博士はパイプに新しい煙草を詰めながら、東洋の記者の面に 一瞥 ( いちべつ )を送った。 「毎度のことながら、僕の説には、はっきりとした證拠の裏附けがないのが遺憾です」 と水戸は本当に残念そうな顔をした。 「が、二つの事件は同一手段によったとしか考えられません。 もちろんさっきの事件も、原子爆弾によるものとは思われない」 「なぜ原子爆弾でないというのかね」 「ホーテンス君。 君だってその点については充分疑問を持っているのではないかね。 もしあれが原子爆弾だとしたら、いくら水中での爆発にしろ、あの駆逐艦D十五号だけがあんなにひどく損傷して粉砕したばかりか全部が気化してしまうことはないだろう、恐ろしい力だ。 それにも 拘 ( かかわ )らず僕が乗っているこのサンキス号を始め、僚艦は大した損傷を蒙っていないではないか。 だからさっきのを原子爆弾と見ることは正しくないと思うのだ」 水戸はここでちょっと言葉を停めて、博士の顔を見た。 博士は軽く肯いてみせた。 「そうはいったが、ゼムリヤ号の被害状況と駆逐艦D十五号のそれとは非常に異なっている。 本事件の怪力の攻撃を受けてD十五号があのとおり粉砕気化するものなら、なぜゼムリヤ号は粉砕気化しなかったのか。 明らかに二つの事件には相違がある。 これが僕の同一原因説なんだよ、水戸君。 だからこそ僕は新しい原因説を出した」 ホーテンスは熱心に水戸を見詰める。 「ところがねホーテンス君。 これは博士に笑われると思うが僕は一つの仮定を置いたのだ。 つまりゼムリヤ号事件のときはその怪力源が相当遠くにあった。 しかし駆逐艦D十五号の場合はずっと近くにあった。 そう考えることはいけないだろうか」 水戸の説は大胆極まるものであった。 そうしてここに論ぜられたもの以外にも多くの欠点を有していた。 しかし彼は敢えて同一原因説を唱え、そして一見無理と思われる解釈を試みたのだった。 なぜ彼はそんな無理を強行するのであろうか。 「君の説は興味深い」 ワーナー博士が突然口を開いたので、その周囲に集まっていた人々は愕いた。 まさかそんな讃辞が博士より聞けようとは期待していなかったからである。 だが水戸はひとり、 恥 ( はずか )しそうに静かに微笑した。 「博士は水戸の説に賛成なさるんですか」 ホーテンスは 訊 ( き )いた。 「まだ賛成はしておらぬ」と博士は明らかに否定し「だが今の水戸の説により、わしは一つのヒントによって、わしは最近の機会に一つの冒険を決行するよ」 「冒険ですって」 ホーテンスを始め皆は愕いた。 水戸も愕いた一人だった。 「そうだ、冒険だ、わしは準備の出来次第、その冒険を決行するつもりだ、何しろプログラムに全然なかったことを、水戸君から得たヒントで行くんだから、少々手数がかかる」 「先生その冒険というのは、どんなことですか」 ドレゴが沈黙を破って、前へ乗出した。 [#「。 」は底本では「、」] 「 左様 ( さよう )、その冒険というのは外でもない、わしは、今後の事情がそれを許すなら、潜水服を着て、あの海底地震帯へ下りてみようと思う」 「えっ、海底へ博士が御自身であの潜水服を着て下りられるというんですか」 水戸が顔を赤くして叫んだ。 「それは乱暴ですね、先生やめて下さい」 助手たちが口を揃えて反対した。 もしも博士がそんなことを本当に実行し海底を歩いているとき、第三の怪事件が起こったらどうなるであろうか。 とんでもないことだ。 だが博士は思い停るとはいわなかった。 「それが近道だと思うからだ。 海底へ下りてみれば何もかも分かるかも知れない」 「しかし先生、そんな危険なことをどうしてなさるのですか」 「危険は、海上にいても出会うだろう。 海底が危険なら、それと同様に海上もまた危険だよ。 ……とにかくわしは近いうちにそれを決行することとして計画を 樹 ( た )ててみる。 職員以外にも希望者があれば同行を許可するから、あとで僕のところへ申出で給え」 博士はそういうと、パイプを口に 咥 ( くわ )えて、この観測室を出ていった。 後には 喧噪 ( けんそう )が残った。 思いがけないワーナー団長の冒険計画についての是々非々の討論が活発に展開していった。 賛成者はもちろん少数だった。 「なによりもまず生命の危険率が頗る大きいことを考えなくてはね、仮りにかの怪奇なる怪力源問題がなかったとしても大西洋の海底を人間が潜水服でのこのこ歩くなんて前代未聞の冒険だよ」 「やっぱり歩一歩と地味な観測を続けるのがいいのではないか。 それが一番の近道ではないだろうか」 「いや、団長は人類の幸福のため自分の尊い生命を犠牲にしておられるのだ。 その崇高な決意に対し、われわれもまた団長と同一精神に燃え、世界人類の幸福のために大西洋の海底を歩くべきだ」 この結論は容易に一つの穴に流れ込むことはなかった。 その間に調査団船とその護衛艦隊は恐怖の異常地震帯を離れること五〇キロの海域に脱出を終わったところで、各艦船は舷と舷をよくつけ合って 纜 ( ともづな )を締め、その夜を大警戒裡にそこで明かすこととなった。 その夜のうちに、大急行で潜水の準備がなされた。 取揃えられた深海用の潜水服は二十着であった。 しかし実際に使用せられるものは十一着で、残りは予備としてサンキス号内に留め置かれる。 その外、海中標識灯や海中信号器に通信機、それから昇降機などの大きな機械類も手落ちなく点検され用意された。 また海底調査隊員十一名が持って行く品物も集められた。 それは諸々の観測器具を始めとし食糧、飲料、工具、通信器、照明灯などの外にダイナマイトと水中鏡も加えられ、これらがずらりと並べられたところは、仲々ものものしかった。 海底調査隊員十一名の顔ぶれは、隊長ワーナー博士を始め、 外 ( ほか )に、観測者が五名、護衛の士官が二名、それから三名の記者であった。 ホーテンスは勿論のこと、ドレゴと水戸が加わることになっていた。 記者三名を除く隊員八名は、ワーナー博士の部屋で海図を囲んで深更に至るも打合せを継続し、いつまで経っても誰も出て来なかった。 サロンでは、三名の記者を中に、壮行を激励する酒宴が賑やかに展開していた。 「ぜひ僕のために、大西洋の海底土産というやつを持って帰ってもらいたいね」 と鼻の頭を真赤に染めた酔払いの船員がホーテンスへねだった。 「海底土産だって。 へえっ、一体何が欲しいのかね」 ホーテンスもすっかり 酩酊 ( めいてい )して、とろんとした眼をしていた。 「何でもいいよ、しかしなるべく豪華なところを願いたいもんだよ。 金貨が一杯入っている袋とか、金剛石紅玉青玉がざらざら出てくる古風な箱だとか、そういうものなら僕は悪くないと思うね」 「それは誰だって悪くないよ。 君の欲の深いのには 呆 ( あき )れたもんだ」 「そんなら貴様も海底へ出張すればいいじゃないか」 と、同僚がまぜかえした。 「いや、僕は駄目だ。 船員というものは船を離れると駄目なんだ。 あんな芋虫の化物のような潜水服を着て、のこのこ海底を歩くなんてぇことは、われわれ船員の柄じゃない」 「うまくいってるぜ。 しかし僕たちがこれから下りて行く海底はそんなものは見付からないだろう。 お目に懸れるのは、骸骨に、腐った鉄材、それに深海魚ぐらいのところだろうよ」 「いや、必ず持って来てやるよ、はははは」 談笑が、煙草の煙とアルコールの強い匂いで飽和したサロンの空気をかきまわす。 水戸もドレゴも、その渦巻の中に顔を見せていたが、給仕が入って来てドレゴに何か紙片を渡した。 ドレゴはそれを受取ると、はっとした様子で立上るとサロンを出ていった。 ドレゴが再びサロンへ戻って来たのは、それから三十分ほど後のことだった。 水戸は 逸早 ( いちはや )く彼を認めた。 そして彼が非常に興奮していることも、同時に見て取った。 「どうしたんだ、ドレゴ」 水戸は彼が元の席についたとき、低い声で 訊 ( き )いた。 「うん……後で話すよ」 ドレゴはそう応えて、苦しそうに顔を 歪 ( ゆが )めた。 水戸はそれ以外彼を追求しなかった。 今この友人を更に苦しめてはならないと思ったからだ。 宴が果てたのは、それから一時間後のことであった。 時計は午後十一時を廻っていた。 酩酊はしていたが、さすがにホーテンスはサロンを出るとすぐワーナー博士たちの打合せ会議が済んだかどうかを訊いた。 会議は少し前に終わっていた。 ホーテンスは、水戸とドレゴを呼んで博士の部屋を叩いた。 「ようやく準備は完了したよ」 と博士は満足らしく微笑した。 「その後、事件について何か判明したことはありませんか」とのホーテンスの質問に対し、博士は「あるよ」といいながら机上の書類を取上げ、 「D十五号の遺留品を、僚艦が現場附近において収容した。 その品目がここに書出してある。 ゆっくり見給え」 とホーテンスたちへ 会釈 ( えしゃく )した。 「それについて何か特別の注意すべき材料がありましたか」 水戸が 訊 ( たず )ねた。 「遺留品は、その表にあるように、殆ど原形を停めないまでに破壊されている。 火薬などによる普通の破壊事件では見られない現象だ」 「なぜそんなに破壊面が粉末化しているのでしょうか」 「それは今のところ不可解だ」 「その破壊面附近に、ウラニウムなどの放射性物質がついていませんでしたか」 「今までのところ、それを検出し得ない。 多分付着していないのであろうと思う」 「それはおかしいですね」 とホーテンスが横合いから口を 挟 ( はさ )んだ。 「すると、D十五号は原子爆弾によって破壊されたのではないといい切っていいわけですか」 「まだ、そこまではいい切れないが、とにかくこれまでに知られたウラニウム爆弾でないといえる可能性が多分にある」 「どうもそれはおかしい。 原子爆弾でなくて如何なるものがあんなひどい破壊を生ぜしめるでしょうか。 いや、これは素人考えに墮していますかな」 博士は黙ってホーテンスに対していたが、それから暫くして口を開いた。 「だからわしは、明日海底へ下りることに決心したわけだ」 ホーテンスは目をぱちくりしたが、すぐ気づいて肯いた。 「なるほど、そうでしたね……いや、僕は今までなんだか原子爆弾の幽霊だけに 取憑 ( とりつか )れていたようだぞ、はて、これはどうしたことだ」 その翌朝、ドレゴは水戸に附き添われて、ワーナー博士の許へ行った。 ドレゴは都合により、今日の海底探検に同行することを辞退したいこと、それから彼は出来るだけ早くこの調査団から離れて、アイスランドへ戻りたいことを申述べた。 博士は、それを聞くとすぐ諒解した。 そして護衛艦の一隻が今日、アイスランドへ引返すことになっているから、それに便乗して行ったがいいだろうといって呉れた。 そして博士はドレゴがなぜ急に予定を変更したかについて一言も 訊 ( き )きはしなかった。 水戸は、博士の肚の太さに対し畏敬の念を生じた。 実はドレゴが急にこんな翻意をするようになったわけは、その前夜、アイスランドから一通の無線電信を受領したことに 拠 ( よ )る。 彼は水戸を誘ったが水戸は応じなかった、こうしてオルタの町の仲好しは一時北と南に別れることとなった。 水戸はドレゴに花を持って迎えるという彼の崇拝者に対し十分注意を払う様にと忠言することを忘れなかった。 下船のとき、ドレゴは 滂沱 ( ぼうだ )たる涙と共に水戸を抱いて泣いた。 彼は帰りたくもあったが、しかし水戸を只ひとりで非常な危険へ追いやることの辛さ故に泣いたのであった。 「水戸。 危険な仕事は出来るだけ早く切り上げて、オルタの町へ帰って来てくれ。 僕はそれを待っているぞ」 ドレゴは水戸の両頬にいくども熱い口づけを残して、遂に去った。 そのとき彼の心に、美しい花束を抱いた若い女の幻がちらりと浮かんですぐ消えた。 午前八時、サンキス号は護衛艦隊に護られ再び南下を企てた。 作業の現場に着くまでに、約二時間の余裕があった。 十一名の壮行者からドレゴが減って、十名となった。 ドレゴの補欠を希望する者は出て来なかった。 誰でも、危険極まりなき大西洋の海底を散歩することは気が進まなかったからだ。 隊員は早速身仕度に懸かった。 芋虫とビール樽との混血児のような頑丈な潜水服をつけて、甲板に一列にならんだところは、壮観ともいえ、また悲壮の感じも強く出た。 この潜水服は背中に圧搾空気タンクを持っていて、外から送気しなくとも自主的に呼吸が続けられる仕組みとなっていた。 午前十時半、現場へ到着。 現場の空は、飛行機で警戒せられていたし、海面は護衛の水上艦艇にて、海中は潜水艦が五隻も繰出されて 一入 ( ひとしお ) [#ルビの「ひとしお」は底本では「ひといり」]、警戒は厳重であった。 留守組の観測班員は、捕えた気象水温その他の数値を刻々と博士に報告した。 「諸君」 と、博士がマイクを 執 ( と )って、整列している隊員に呼びかけた。 「本日は例の異常海底地震を全く感じない。 といって安心するのはまだ早い。 海底で異常地震に遭遇したときは、かねての注意に基き、わしからの信号により行動するように。 冷静を失うと結局いいことはないから、どうかそのつもりでいて貰いたい」 博士の非常警報が出たときに限り、全員は応急浮揚器の紐を引いて、海底に [#「海底に」はママ]浮かびあがる手筈になっていた。 それ以外は、どんなに不安に 怯 ( おび )えるとも、博士を信頼して頑張ることになっていた。 ホーテンスも水戸も、列の最後尾に並んで共に元気だった。 「おい水戸君。 昨日D十五号だけがあのとおりひどくやられて他の艦船が [#「艦船が」は底本では「艦舟が」]大した損害を受けなかったことを君は不思議に思わんかね」 ホーテンスは、闘志満々たるところを示して、この期になお同業者と討論を持ちかける。 「不思議は不思議さ。 およそ何もかも不思議なんだ。 それはとにかくD十五号事件によって、あの驚異の力には方向性があるといえると思うんだ」 「方向性だって」 「そうだ。 方向性があればこそ、D十五号だけがあのような大破壊を受け附近にいた水上艦艇も水中にいた潜水艦も共に惨害から免れたのだと思う。 だからわれわれが水中であの種の驚異力の発生を感付いたら、すぐに物蔭に寝るといいと思うね。 水中では波動速度がのろいから、きっとそれでも間に合うと思うよ」 「なるほど。 それはいい考えだ、覚えておこう」 ホーテンスは水戸の説に興味を覚えた、しかし 真逆 ( まさか )そのことが間もなく本当に水中に於て 試 ( ため )されようとは神ならぬ身の知る由もなかった。 そうと感づいていたら彼はもっと多くのことを水戸に質問したであろう。 午前十一時、遂に潜水が開始された。 サンキス号の左舷には十本の鋼鉄ロープが吊下げられた。 その先は海面にたれていたが、それぞれ一体の潜水服に潜水兜をつけたグロテスクな人間をぶら下げていた。 まずワーナー博士が、一番舳に近いロープによって、海面に沈んでいった。 そのあとから夥しい泡が湧き上って、甲板から見守っている人々に、何か息苦しさに似た感じを与えた。 第二番、第三番と順に進んで第九番のホーテンス、第十番の水戸が海面下に姿を消したのはそれから二十分後のことだった。 甲板の連絡班長のいうところによれば、ワーナー博士外三名は、早くも海底に着き、ロープから離れて海底歩行を始めたそうである。 水深百二十メートル、果たして博士一行は如何なるものを、暗黒の大海底において発見するであろうか。 この事件が起こって以来ずっと一緒に手をとって来た親友水戸記者を大西洋に置去り、自分ひとりアイスランドへ帰っていくドレゴの気持ちは、さすがに晴れなかった。 彼は北へ走りだした快速貨物船の甲板に立って、小さくなり行くワーナー調査隊の船団の姿を永いこと見送っていた。 やがてその船団は水平線の彼方に没し、 檣 ( マスト )だけがしばらく見えていたが、遂にそれも波間に見えずなった。 ドレゴは溜息と共に甲板を去り、サロンに入って酒を注文した。 それから彼は呑みつづけた。 昼も夜もアルコールの漬物みたいになって、ひとりでわけのわからぬことを口走っていた。 彼は水戸をどうしてあそこへ置去りにしたのか、それについて良心が 咎 ( とが )めて仕方がなかった。 そして、親友水戸の上に何か恐ろしい魔物の爪がのびかかっているように思えてならなかった。 彼はその不吉な幻影を追払おうとして益々盃の度を重ねていった。 さすがに酒に強い彼も、その日の深更に至って遂に倒れ、ボーイたちによって船室へかつぎこまれた。 泥のような熟睡に、彼は一切を知らないで約半日を過ごした。 彼が目を覚まして、甲板へ出て来たのは、翌日の正午に近かった。 海の色も空の模様も、もうすっかり様子が変わり、西北の季節風が氷のような冷たさを含んで船橋のあたりから吹き下ろしてくるのだった。 彼はぶるぶると 慄 ( ふる )えて、上衣の襟を立てた。 昼食のとき、彼は船長の 卓子 ( テーブル )に席を用意されたので、我意を得たという顔をした。 「船長。 昨日以来、ワーナー調査団から何か新しい情報は入らなかったですかね」 早速彼は、気にかかっていたことの質問を出した。 「詳しい情報は何も入らないですよ」 と船長はちらりとドレゴの顔へ視線を走らせて応えた。 「すると、昨日から始めた海底調査の結果なんか、何もいって来ませんかね」 「ええ、たいして詳しいことも」 「あれはうまく行っているんでしょうか」 「さあ……」船長は、ちょっと苦しそうな表情になって 「なかなか面倒らしいですね。 昨日の午後になって本国へ航空隊の来援を打電していたようですよ」 「航空隊の来援を……。 すると何か重大な [#「重大な」は底本では「重大に」]発見でもあったのかな」 ドレゴ記者は、商売がら、そういう方へ航空隊来援要請を解釈した。 それに対して船長は何も応えず、料理へフォークを使うのに熱中しているように見えた。 もしもドレゴが、今船長の口を滑らせたことについて正確な解釈をすることが出来たら、彼は食事も何も放り出して、早速南方へ向かう飛行機の提供方を、船長に交渉したことであろうに。 船長は、或る出来事について沈黙を守っていなければならぬ義務があったのだ。 尤 ( もっと )も船長自身もそれについて詳しい 顛末 ( てんまつ )は知らなかった。 ただ、或る重大な事件が昨日来、ワーナー調査団に発生して目下極力善後措置に努力中だとは知っていたが……。 食事の途中で、この船が午後三時にオルタ港へ入る予定であることが発表された。 そうなると、ドレゴの胸は怪しく鳴りだした。 いよいよオルタへ入るのだ。 彼を待っている「崇拝者」と顔を合わすことになるのだ。 その「崇拝者」は二度に亙って、彼に対して帰国をすすめた。 そして埠頭に花束を持って彼を迎えるであろうと約束した女性にはちがいないと思う。 一体、誰であろうか。 オルタの町に、美人は多い。 彼女はその中の誰であろうか。 ドレゴは、かねて彼の胸に 灼 ( や )けついた若い女性たちの顔を丹念に一人づつ思い出してみては、首をかしげるのであった。 酒場「青い靴」のスザンナであろうか。 それとも「極光」のペペであろうか。 いや、それでなくもっと高貴な婦人、たとえばプルスカヤ伯爵夫人か、公爵令嬢マリア・ムルマンクか。 さっぱり見当がつかないなあ。 それからそれへと、いくら思い出してみてもこれならばという自信の湧き出る美しい女性を探し当てることはできなかった。 ドレゴははげしく昂進してくる自分の心臓に気がつき、 吃驚 ( びっくり )して胸を抑えた。 解決のつかないままに、船はオルタ港口を入ってしまった。 ドレゴは、長いオーバーの胸にアスパラガスの小さい枝を挿し遊歩甲板に立って、全身の注意力を埠頭の方へ向けた。 彼の眼にはパアサーから借りた六倍の双眼鏡があてられていた。 船が大きく曲線航跡を描いて七面鳥桟橋へ横付けになる用意の姿勢に移った。 埠頭に群れ集まる数百人の男女の群が、はっきりと双眼鏡の奥に吸い込まれた、いろんな顔が重なっている、ドレゴは、早鐘のように打ちだした自分の心臓を気にしながら、美しい若い女性の顔を探し始めた、花束をその顔と一緒に並べているところの……。 「これはたいへんだ」 ドレゴは 呻 ( うな )った、というわけは花束を抱えている若い女性の数があまりにも多かったから、誰も彼も、美人という美人は花束を持っていたのだ。 ドレゴは勇気を鼓して、その美しい顔を丹念に拾っていった。 だがどれ一つとして、自分の心当たりのそれがなかった、何遍くりかえして見ても、同じだった。 「ふむ、すばらしいぞ。 これは、新しいロマンスの開幕だ」 この夥しい女性のどれが、自分の胸に香りのいい頭髪を押しつけるであろうか、そう思うと、彼は船を乗り越えてざんぶりと海中に飛入り、桟橋までクロオルで泳ぎつきたい衝動に駆られた。 ところが、いよいよ船が桟橋について、彼が舷梯を駆下り、花束美人の真只中へ突入してみたところ、意外にも誰一人として彼の胸に花束を持って飛びついてくる女性がいなかったのである。 彼はがっかりした。 彼は十五分間に、ねたましいほど仲のいい恋人の何十組かを見送って、すっかり気を悪くし、そして疲れてしまった。 仕方なく海岸通りの方へ少し歩き出したとき、突然彼の名前が呼ばれ、彼の目の前に飛び出してきた女があった。 「おお、エミリー……」 ドレゴの前へ飛び出してきた女は、チョコレート色の長いオーバに大きなお尻を包み、深緑のスカーフに血色のいい太い頸を巻いた丸々と肥えた年増のアイスランド女だった。 彼女はサンノム老人の姪で、水戸なんかの泊っている下宿屋で働いていて、主人のサンノム老人を助けていたのだ。 「エミリー、君か。 まさかね」 ドレゴは 呆気 ( あっけ )にとられて、エミリーの丸い顔を見詰めた。 エミリーではないだろう、彼の崇拝者というのは。 その証拠に彼女は花束を持っていない、しからば希望は残っているぞ。 だが、年増女のエミリーは、俄かに口がきけないらしく唇をぶるぶる 慄 ( ふる )わせながら後に隠していた花束を前に出した。 ドレゴはあっと声をのんだ。 エミリーの手には、二つの花束があった。 二つのうち、紅い花の数が少ないほうの花束を、ドレゴに手渡しながら始めて口をきいた。 「ドレゴ様、おひとりなんですか。 訳は分ったのだ。 エミリーの待ちこがれていたのはドレゴにあらずして、実はもう一つの紅い花がたくさん挿してある花束を捧げる筈の人物の方にあったのだ。 それに止めを刺すかのようにエミリーが早口に喋りだした。 「あたくし、がっかりしましたわ。 ドレゴ様とあろう方が、気がおききになりませんのね。 あたくしの手紙をごらんになり電報をお読みになれば、あなた様が必ず水戸さんを連れて帰っていらっしゃらなければならないことは、お分りの筈じゃありませんか。 「だってそれは無理だよ。 あの手紙や電報では、そんな意味には取れやしない」 「そんなこと、ございませんわ。

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も こう 発狂

来歴 生まれ。 在住(2015年時点)。 奈良産業大学(現・)卒業。 、中学一年生の時にを患い、入院することになる。 、中学二年生で退院する。 学校へ行ってみるも、周りは皆友人を作っていて馴染めないことに気づいてしまう。 自己紹介の直後に教室を飛び出し、その日から不登校になる。 不登校時代は、とネットの生活が主であった。 のひきこもり板()で、「智明」というコテハン(固定ハンドルネーム)で活動を始める。 にて配信を行っていた記録もあり、もこうチャンネルにて現在も当時の動画が有料公開されている。 、中学を卒業した後はに通うことになる。 、大学1年時に「もこう」名義での初の動画であるの対戦実況動画「厨ポケ狩り講座」をにアップロード。 2010年9月までに同シリーズの動画55本を投稿し 、歯に衣着せぬ言動で一躍人気投稿者となる。 3月 大学卒業。 その後として働く。 、YouTubeに自身のチャンネルを開設。 をもってシステムエンジニアとして働いていた会社を退職する。 にリリースされたオンラインパズルゲーム、MagicalStoneのサベージ役で声優デビューを果たす。 にスマートフォン向けアプリゲーム戦国幻武にて声優名義の馬場豊としてデビュー。 にが作成した資料において「ニコニコ動画発の有名ゲーム実況者」として言及された。 、が認定する初の11人の一人に選出された。 ただし自身ではゲームの実力者ではなく、プロの配信者であるという意味を込め、「ストリーマー」、「ゲームストリーマー」を名乗っている。 もこうとしての活動以前に「ともあき」名義で活動していた。 投稿した動画シリーズのタイトルから「厨ポケ狩り」が代名詞になっているほか 、「王」がファンからの愛称となっている。 ここから転じ、厨ポケ狩りの王 、ニコニコ動画の王 、ポケモンバトル界の帝王などと呼ばれている。 好物はカレー。 出演 インターネット番組 レギュラー• ゲーム実況委員会(2016年2月4日 - 5月30日、 闘会議TV)• もこう式(2016年2月17日 - 4月20日、ニコニコ生放送 闘会議TV• シャドバスアカデミー(2016年8月18日 - 2017年9月2日、ニコニコ生放送)• tv)• 帰宅部 シャドバスアカデミー(2019年4月24日 - 、OPENREC. tv)• (2016年11月27日 - 2017年2月25日、ニコニコ生放送)• RAGE裏チャンネル(2017年9月18日 - 2018年8月19日、OPENREC. tv)• (2018年4月17日 - 6月19日、 ウルトラゲームス)• (2018年7月27日)• (2018年12月23日)• (2019年3月20日)• (2019年5月10日)• (2020年2月22日)• (2018年2月17日 - 6月9日、 ウルトラゲームス)- P-Sports四天王• (2018年2月27日 - 4月10日、AbemaTV ウルトラゲームス) 声の出演 特筆しない限り、馬場豊名義。 テレビアニメ• (2017年、御手洗友人A) ゲーム 2016年• MagicalStone (サベージ) - もこう名義 2017年• ころころもこう(もこう 他) - もこう名義• 戦国幻武(九鬼嘉隆、真田幸隆、馬場信春)• (トイソルジャー、ブラッドベルセルク) - もこう名義 2018年• (ギュンター) 2019年• (シャルル・ド・モコー) ナレーション• 「」PV(2018年) テレビ番組• 『ゲーム実況沼』(、) CM• クリプトスペルズ(2020年) 脚注 [] 注釈• もこう自身が小学生の頃から作っていたと認めているウェブサイトで公表。 ポケモン対戦において流行している、ゴリ押しでも勝てる強いポケモンを厨ポケと呼ぶ。 eスポーツ大会開催時に配信される不定期配信番組• 出演者は、もこう、、o-228おにや、つるおか かものはし 、はんじょう• 出演者はもこう、加藤純一、はんじょう、o-228おにや、つるおか かものはし• ぷよぷよと同じルールを用いたオンライン対戦ゲーム。 2016年3月27日にサービス開始したが開発元の会社が RMT をしていることが明らかとなり同年4月24日にサービス休止となった。 サービス開始当時は声優名は伏せられていた 出典• ニコニコ生放送. 2019年5月29日閲覧。 KAI-YOU. net POP is Here.. 2019年5月29日閲覧。 もこう 2015年4月10日. 2015年4月21日時点のよりアーカイブ。 2018年4月15日閲覧。 超ふつうなポケモンの部屋!!. 2003年6月9日時点のよりアーカイブ。 2018年4月15日閲覧。 2015年8月26日付 1面• 動画投稿者もこう@wiki. 2019年5月27日閲覧。 日本語 , 2019年5月27日閲覧。 49 総務省 2018年3月]• ねとらぼ 2018年4月9日• AbemaTIMES 2018年4月17日. 2018年4月19日閲覧。 AbemaTIMES 2018年4月16日. 2018年4月19日閲覧。 KAI-YOU 2014年4月18日 2018年3月23日閲覧 聴き手:よしだゆうや)• com 竹内白州 2018年2月20日 2018年3月23日閲覧• KAIYOU 2016年8月22日• KAIYOU 2016年8月10日• 臨時うんこちゃん録画保管庫 2019-04-28 , , 2019年5月27日閲覧。 RAGE NEW GENERATION E-SPORTS 2017年9月13日. 2018年3月24日閲覧。 ニコニコインフォ. ドワンゴ 2018年12月6日. 2019年4月29日閲覧。 Gamer. 2019年3月4日. 2019年4月29日閲覧。 ニコニコ生放送. 2020年5月7日閲覧。 ニコニコニュース. 2020年3月27日. 2020年5月7日閲覧。 ねとらぼ 2016年4月17日. 2020年2月26日閲覧。 KAI-YOU• 【公式】戦国幻武• Shadowverse公式サイト• 木村唯人 [ kimurayuito] 2017年12月12日. ツイート. より 2018年9月7日閲覧。 【公式】ブラウンダスト [ browndust] 2018年9月6日. ツイート. より 2018年9月7日閲覧。 4gamer. net• 2020年6月3日閲覧。 関連リンク• - チャンネル• - チャンネル• - ユーザーページ• mokouliszt -• mokouliszt - この項目は、 に関連した です。 などしてくださる(、)。

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「辻元清美大発狂」という偽ニュース

も こう 発狂

コメント• : 名無し : 2019-07-24 01:29:24 ID: ZDY2YTE1 民主党にかつて期待して、政権交代した挙句、 就職氷河期、国力低下。 沖縄から基地撤退、高速無料化皆んなウソ。 福島原発事故放置して、政権放り出した無責任は、全部無かった事かい?• : 名無し : 2019-07-24 01:54:18 ID: Zjc0YTE1 民主主義を理解できないんだろうなw• : 名無し : 2019-07-24 03:06:14 ID: OGQ4ZmUw こいつらのメンタルは鮮人とまったく同じ。 ヒトラー大好き戦争大好き暴力大好き。 異常なのはお前らだってんだよ• : 名無し : 2019-07-24 06:15:53 ID: MzBmOWY1 バカだからパヨ• : 名無し : 2019-07-24 07:17:42 ID: NTViMTVm こんなこと言ってるから支持されないって分からないんだろうなぁ 自分たちが絶対正しくて反対する奴はみんな悪だってナチュラルに思ってそう• : 名無し : 2019-07-24 07:22:15 ID: NGM1YzE2 そういうお前は何人だよ定期• : 名無し : 2019-07-24 08:17:51 ID: ZDlkMTRm 公文書ねつ造 消費税増加法人税減税 北方領土献上 消えた年金• : 名無し : 2019-07-24 08:22:18 ID: YThiMjNh 自民じゃなければ日本は良くなるってまだ言ってるんだな 2度騙されるほど日本人は馬鹿じゃないんだよ• : 名無し : 2019-07-24 12:11:29 ID: ZmYyYjJi 飛車角落ちで選挙負けたのか真剣に考えてみなさい。 誰も自民がいいなんて言ってない。 野党が嫌なんだ。 : 名無し : 2019-07-24 15:35:59 ID: YjY5Yjc0 消費税増税よりも野党に政権渡す方が嫌なんだろ.

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